「全力で仕事をかたして来ました!」
バージョンアップの日、彼女はそう話していた。
「かたすって何?」と聞くと、片づけるということらしい。
「言いませんか?」と問われたが、他のフレと一緒に「言わないよね」と返事をした。
彼女はできるプレイヤーだった。
ガチ勢、と言ってもよいかもしれない。
レベル上げも金策も得意だった。
住宅村が実装され、ほどなく彼女は家を買った。
立地の悪いアズラン林道とは言え、55番地、といういい物件だった。
俺も、彼女に追いつきたい一心で55番地に家を買った。
プリンを教えてくれたのも彼女だった。
ちょうど、バージョンアップで、魔法戦士が実装されたころだった。
彼女は、レベルごとに、ちょうどいい狩場を教えてくれた。
メタルを回すだけの今のレベル上げを見たら、彼女はどう思うだろうか?
いや、きっと誰よりも早くメタルを回している気がするw
アストルティアという世界ができて9か月ほど経ったとき、彼女はいなくなった。
彼女がいなくなって、何度目のバージョンアップか、もはやわからない。
だけど、バージョンアップのたびに俺は心の中でそっとつぶやく。
今日も……
「全力で仕事をかたして来ました」と。