『風を切る白いドルボード』
エンジンの低い重低音が、シート越しに骨まで響く。晴れ渡るプクランドの空の下、乾いた砂利を跳ね上げ、一台の白いドルボードが風を切り裂いていた。
ハンドルを握るのは、陽光を反射して輝く白銀のショートヘアを小さく揺らす女性※※ぐじらぐもだ。伏し目がちな切れ上がった瞳、愁いを帯びた切れ味のある佇まい。彼女は視線だけで隣を盗み見た。
「……力、入りすぎ」
低くハスキーな声が、風に溶ける。
「ひ、ひゃいっ! す、すみません……!」
助手席の主人公は、シートの端をすがりつくように握りしめていた。流れる景色と強烈な加速に、喉がカラカラに乾いている。
「そんなに固くなってたら、メギストリスに着く前に身体が持たないわよ」
薄い唇の端をわずかに上げる。彼女の視線が、主人公の膝元へ落ちた。傷ひとつない初期杖と、新品の法衣。
「一人前の僧侶、ねぇ」
「あ、はい……。でも街道の魔物が怖くて……」
「ふん」
短く息を吐くと、彼女は煙管を指に挟み、あえて遠くを見つめた。
「……勘違いしないで。助けたわけじゃないから。目の前でオロオロ歩かれると目障りなだけ。ついでよ」
つれなく言い放ちながらも、アクセルを踏み込む足取りには無駄がない。車体に伝わる感覚はどこまでも安定している。
「でも……本当に助かりました」
「礼なんていらない。……ただ、誰かが覚悟を決める瞬間の顔は、嫌いじゃないってだけ」
タコメーターの針が跳ね上がる。頬を叩く風の中に、彼女から立ち上る甘い紫煙の香りがかすかに混ざった。主人公の不安は、そのアンニュイで頼もしい横顔の中に溶けていく。
「……見えてきたわ」
彼女が顎で前方をしゃくる。丘の向こうに、メギストリスの煌びやかな城壁が陽光を浴びて輝いていた。 「さ、降りた降りた。ここからは自分の足で走りなさい、新米くん」
「はい! ありがとうございました!」
白いドルボードは低い排気音を残し、大勢の旅人が行き交う都のゲートへ滑り込んでいった。あとに残されたのは、ほんの少しの甘い煙の余韻だけだった。

今回は愛読書の『くじらぐも』さんに登場してもらいました。
自分をつかっても良いよと言ってくれる方も募集しております!!

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