『絶望の迷宮と届かぬ祈り』
魔法の迷宮の最深部。ヘルクライダーの放つ邪悪な冷気と血の匂いが、暗闇を支配していた。
「ぐぁッ……!?」
絶叫が響き渡る。「鉄壁」と称されたパラディン・カナの巨大な大盾が、爆音とともに激しく破砕された。骨の竜を駆る騎士――ヘルクライダーが振り下ろす禍々しい大剣。その波状攻撃の前にカナの胸甲は紙のように引き裂かれ、大量の鮮血が舞った。肋骨の砕ける嫌な音が響き、巨躯の男が血の泡を吐いて膝から崩れ落ちる。
「カナ……ッ!?」
恐怖で息が詰まる。新米僧侶であるあなたの判断ミス――魔法の詠唱速度とヘルクライダーの間合いを見誤り、回復呪文を撃ち漏らした一瞬の遅れが、決定的な致命傷を招いたのだ。唱え損ねたホイミの光が空しく消え去る。あなたの足はガタガタと激しく震え、死への恐怖と後悔で地面に縫い付けられたように動かない。
「……動くな。動揺は死を加速させるだけだ」
天才僧侶ギルが、冷徹なまでに冷静な声で前に出る。しかし、ヘルクライダーの猛攻は止まらない。漆黒の刃による凄まじい一閃がギルの法衣を深く引き裂き、脇腹から赤黒い血が噴き出した。ギルは激痛に顔を歪めることすらなく、鋭い視線で死線を見据えたまま静かに告げる。
「僕の計算ミスだ。君の未熟さと戦況の推移を見誤った……だが、全員死ねばすべてが終わる」
ギルは感情を完全に削ぎ落とした厳しい眼差しで、絶望に打ちひしがれるあなたを射抜いた。
「泣いて許しを乞う暇があるなら動け。僕が残された全魔力を賭して視界を奪う。君が二人を引きずってでもあの扉まで走れ。足を引っ張り続けた君に課された、これが最後の責任だ」
「ギ、ギルさん……っ!」
「行け……! 戻らねば、全滅だ!」
ギルの杖から目くらましの閃光が放たれ、ヘルクライダーが不快そうに咆哮をあげる。
「ひっ……うぁぁぁっ!」
あなたは半狂乱になりながら、重傷で意識の遠のくカナの重い体と、血まみれのギルを必死に抱え上げた。背後でヘルクライダーの猛烈な地鳴りと、死の追撃が迫る。腕の肉が千切れるような重圧に耐え、擦り切れる足でただ無我夢中に扉へ飛び込んだ。
ガチャン――ッ!
重厚な鉄扉が閉まり、直後に外側から猛烈な衝撃が響く。すんでのところでヘルクライダーの追撃を弾き返したのだ。
冷たい石畳の上に転がり出た三人。カナは大血の海の中で浅い呼吸を繰り返すのみで、ピクリとも動かない。ギルは傷口を強く押さえ、絶望と恐怖に震えるあなたを冷ややかに見つめた。
「……生き残ったな。だが忘れるな。今日の死線は、君の甘さが引き寄せたものだ」
不甲斐なさと、目の当たりにした戦場のリアルな残酷さ。あなたは冷たい地面に伏し、激しい悔しさに涙を流しながら、二度と二人を死に晒さない本物の僧侶になると強く心に誓った。
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