第3章:凍土に流れる血と棄てる者
氷点下の狂風が吹き荒れる中、刃のようなアイスリザードの爪がりょうすけの肩口から胸元にかけてを深く引き裂いた。肉が裂ける「メリメリ」という音が響き、鮮血が吹き出して白い雪原を真っ赤に染め上げる。激痛で喉が潰れるほどの悲鳴をあげる彼を横目に、パーティの男たちは不快な冷笑を浮かべながら踵を返した。
「ヒヒッ、上出来だ! こいつが喰われている間に逃げるぞ!」
「あばよ、おめでたい転生者殿! 泥の中で骨までしゃぶられな!」
ダイコンの首が飛ばされたあの日と同じ、逃げ場のない死の匂い。頼りにしていた仲間に背中を刺され、生贄として置き去りにされる絶対的な絶望。刺さるような極寒と出血多量により、体の末端から急速に感覚が失われていく。喉の奥からはゴボリと黒ずんだ血の泡が溢れ、視界が白濁していく。
「僕の人生は……どこに行っても、利用されて……捨てられて終わるのか……」
社畜として使い潰された前世、出会って瞬時に引き裂かれたダイコン、そして生贄として死んでいく今世。不条理な神の悪戯への狂おしいほどの怒りと、己の不甲斐なさへの失望が混ざり合い、視界が真っ黒に染まりかけたその時――。
重厚な甲冑が雪を踏みしめる「ズシン、ズシン」という地鳴りのような足音と、雪を蹴立てる複数の足音が吹雪を破って近づいてきた。
「ほう……まだ息があるか。無様だが、その泥に塗れた眼光だけは死んでおらん」
響いたのは、深く威厳のある男の声だった。圧倒的な密度を持った魔力が周囲の猛ふぶきを物理的に押し返し、凍てつく闇の中に一筋の圧倒的な光が差し込む。崩れ去る視界の端で、りょうすけが見たのは、雪原にそびえ立つ幾つもの圧倒的な影だった。彼らの纏う気圧されるほどの圧迫感は、先ほどの卑劣な荒くれ者たちとは一線を画していた。りょうすけの途切れかけた意識は、その眩い光の中でついに途絶えた。