第7章:雪原を染める聖光
『まおうのつかい覚醒』が放った暗黒の漆黒波動が爆発した。カナーの巨盾が弾き飛ばされ、グミとコブノタンが血の海に倒れ伏す。レオンライトも杖を折られて吹雪の中へ吹き飛び、天才であるギルティさえも魔力の過酷な枯渇と強烈な打撃により膝をつき、肩で激しく呼吸している。魔物の漆黒の大剣が、倒れたレオンライトの首元へ向けて容赦なく振り上げられた。「しまっ……! レオンライト殿!」
ギルティの悲痛な叫び。死の影が師を覆い尽くそうとしたその一刹那――泥と血と己の吐血に塗れた一人の男が、狂ったような速度で割り込んだ。
「させない……! 僕の師匠に……仲間たちに、手を出すなっ!!」
りょうすけだった。彼は自らの身体を投げ出し、魔物の振り下ろした衝撃波の直撃をその背で正面から受け止めた。背骨が軋み、肉が裂け、内臓が潰れるような劇痛。しかし、彼は倒れなかった。ダイコンが一瞬で噛み砕かれ、己も裏切られて捨てられた絶望の泥を這いずり回った不器用な男の魂が、今、激しく咆哮していた。
「僕に……才能なんてない! ダイコンみたいに一瞬で死ぬかもしれなかった! でも……叩き込まれたこの術は……僕たちの絆は、絶対に折れない!」
胸の奥底、魂の最深部から枯れ果てたはずの魔力が、血を洗う激流となって溢れ出す。レオンライトから受け継いだ厳格なる理、カナーから学んだ不屈の護り、ギルティから見た慈悲の光、そして泥臭く共に高め合ったグミとコブノタンの熱き魂。それらが一つに収束し、りょうすけの掲げた血まみれの両手から、吹雪の極夜を白銀に塗り替えるほどの圧倒的な「聖光」が放たれた。
広域最上位回復呪文の覚醒。その光は傷ついた『はじまりの地』の仲間たちの全身の傷口を瞬時に塞ぎ、折れた骨を繋ぎ、溢れんばかりの生命力を充填させた。さらに、聖なる光の波動は暗黒の威光を纏う『まおうのつかい覚醒』の闇の衣を激しく焼き焦がし、その動きを大きく鈍らせた。
「へっ……やってくれるじゃねえか、新入り……! 先に行かせねえぞ!」
傷を完全に癒やされたコブノタンが不敵な笑みを浮かべ、血を拭って二本の片手剣を握り直し、疾風のごとく跳躍する。
「俺たちの泥臭い努力は……絶対に無駄じゃなかった! いけえぇッ!」
息を吹き返したグミが咆哮とともに魔物の足関節へ目にも留まらぬ破砕の脚蹴りを叩き込み、巨体の姿勢を完全に崩させる。
「よくやった、りょうすけ! 見事だ!」
体制を立て直したカナーが地響きとともに立ち上がり、咆哮とともに魔物の足止めを完成させる。
「我が弟子よ、最高の一撃の隙をくれたな!」
立ち上がったレオンライトの手に宿る凄絶な魔力から、天を突く巨大な極大炎の槍が生成される。
「終わらせよう。僕たちの真の仲間とともに!」
ギルティの指揮のもと、完全に連携を取り戻した『はじまりの地』の刃と極大魔法が、覚醒した魔物の核心を穿った。
魔物の断末魔の咆哮が雪原に轟き、漆黒の肉体が光の塵となって崩れ去っていく。
激闘が終わり、静寂を取り戻した極寒の雪原。吐く息の白さの中で、りょうすけは膝をつき、己の血とマメに塗れた手を見つめた。不器用で、利用され、目の前で仲間を殺されて絶望した男はもういない。倒れた自分に不敵に笑いながら肩を貸してくれるコブノタンと、熱く拳を突き出してくるグミ。そして温かく見守る師たち。凍てつく血と理不尽な異世界で、彼は確かに「仲間を護る真の僧侶」として、その足で立ったのだった。