第3話:漆黒の牙と白銀の舞
「ルガァァッ!」
視力を一時的に奪われたドラゴンが、匂いと魔力の残光を頼りに突進してきた。死角からの急速な接近。巨体からは想像もつかない俊敏さで、黒鱗に覆われた長頭がりょうすけへ迫る。
鋭利な牙の隙間から垂れる粘着質な唾液の臭いと、焦げ付くような硫黄の臭気がりょうすけの顔面に吹き付けられた。
(また……目の前で……噛み殺される……!?)
身体が竦み、足が氷床にへばりついて動かない。死の冷気が首筋を撫で、前世の孤独な死と、この世界での凄惨な死の光景が脳裏で重なり合う。死へのカウントダウンが頭の中で刻まれた、その瞬間――。
「私の前で、可愛い後輩に手を出すんじゃないよ!」
可憐で澄んだ叫びとともに、クロエが視界に割り込んだ。彼女は隠者としての法衣を鮮やかに翻し、白銀の雪原を舞うように滑空する。その手には研ぎ澄まされた陣扇と、聖導の加護を宿した鈴が握られていた。 「聖なる静寂よ、その狂気を縛れ……『ラリホーマ』!」
クロエの指先から放たれた深緑の幻光が、ドラゴンの目元を直撃する。完全な催眠には至らないものの、強力な精神干渉にドラゴンは一瞬頭部を激しく振るい、視界と平衡感覚を狂わせた。突進の軌線がわずかに逸れ、りょうすけの脇を巨大な巨躯が暴風とともにかすめて通り抜ける。
「ナイスお姉さん! 隙だらけだねえッ!」
甲高い少年の声が狂風を打ち破った。突風とともに跳躍したのは、プクリポのバトルマスター・プクルだ。モフモフとした愛くるしい体に丸い瞳。普段の可愛らしい容姿からは想像もつかない、殺戮者としての獰猛な気迫が全身から溢れ出していた。
両手に握られた短剣――毒を塗られた凶刃が、ドラゴンの硬質な黒鱗の隙間、肉が露出する関節の可動部へ容赦なく突き立てられる。
「タタタタタッ!!」
連続する残像。プクルはドラゴンの背中を縦横無尽に駆け巡りながら、短剣を何十回、何百回と高速で突き刺した。肉が削られ、黒く凝固した竜の血が飛沫となって噴き出す。
『タナトスハント』。
毒に侵された肉体を内部から引き裂く壊滅的な連射攻撃が、ドラゴンの巨躯を大きく揺らした。
「ルガァァァッ!?」
ドラゴンが苦悶の声を上げ、背中の小小さき破壊者を振り払おうと激しくのたうち回る。
「ヒャハッ! 痛いかい? でもね、僕たちの命を弄んだ神様の悪戯に比べたら、こんなのただの小突き合いだよ!」
プクルは引き裂かれた竜の背の上で不敵に笑い、くるりと着地してみせた。だが、竜の怨念は消えるどころか、傷口からどろどろとした黒いモヤを噴き出し、さらに黒く重い狂気を増して膨れ上がっていくのだった。