今日も今日とて、魔女アマデウスは森の中。
かすかなバグの羽音に顔をあげ、遠ざかるのを確認し、しかめた眉を緩める。
背丈ほどの樹が2本、寄り添っている。
枝葉をじっと見つめ、色艶、形状、ささやかな変化。
幹にそっと耳を当て、目をとじ、自身の血幹と同調させ、
久々の会話を楽しんでいた。
従者の豚、イングベイが醜い声でアマデウスを呼ぶ。
穏やかな時間に騒々しさを持ち込んだことに苛立ちつつ。
その方を見やると、、、迷い込んだ人影ひとつ。人間の子どもだ。
手足胴、そこらじゅう腐り、世界に溶けていくかのよう。
視線は蝶や葉を追うが、活気はない。
無垢な子どもだからでもなく。この場合、大人も同じ症状になる。
もう助からない。
どうぐ袋から瓶を取り出す。
子どもの口元までもっていくと、無感情なまま飲み干した。
数時間、そこからアマデウスは立ち去らず、座り込んでいた。
本来は無駄な時間を過ごす性質ではない。
傍には幼い樹。根元には僅かながら人であった形跡。
"神の一部"になる瞬間を、なんとなく、、見届けたくなった。
アマデウスは先ほどの瓶を取り出し、飲む。
これは毒。世界と同化する症状を加速させるが、
私は同じになれないから。
神の経は等しく通じているのに。
一緒に飲める。この先を友に歩める仲間を見つけるための毒。
アマデウスはそう使うことにしている。
神経塔の奥へ奥へと、朽ちた枝を踏み割りながらも歩み進める。
同胞を覆い滅ぼすまでに伸びた樹々に、表情を変えず。
生きられないなら、生きなければいい。