リアルでは雪の降りしきる大みそかの晩。
みすぼらしいドレアを着た武器売りの少女が、
おびえる仕草をしながら一生懸命鯖1グレンを通る人によびかけています。
「はがねのつるぎは、いかが。はがねのつるぎは、いかがですか。誰か、はがねのつるぎを買ってください」
でも、今時バザーでもモーモンバザーでもなく、
手売りではがねのつるぎを売ろうだなんて人を見たら、
詐欺か頭がイカれているかのどちらかに違いないので、
誰も話しかけようとしません。
「お願い、一本でもいいんです。誰か、はがねのつるぎを買ってください」
今日も一本も売れていません。
たしかに昔のはがねのつるぎはヒゲのおっさんが国と取引したり、
ヒゲの嫁を通したグレーな方法などで稼げる商材として有名でしたが、
今時そんな物を路上で売るのは単なるパフォーマンスとしか思われません。
(そのヒゲは勇者の仲間になった途端馬車に押し込められ、手持ちの財産は全て勇者に横取りされたことも合わせて有名な事実である)
しかし、それはある種の必死さを感じさせるものでした。
そこへかわいそうに思ったか、
はたまた大量の白チャットログのウザさに辟易したのかは分かりませんが、
ともかく一人のオッサンが少女に話しかけます。
見た目上事案が発生しそうな状況に見えますが、
アストルティアでは見た目の年齢など些細なことに過ぎません。
『一本売ってくれないか?』
「ありがとうございます!2600Gになります!」
『!?高くないか?』
オッサンが見る限り、
そのはがねのつるぎは店売り大量生産品のナマクラに見えます。
「武器屋さんの値段を参考にしているんです」
今の同品質のバザー市場価格は800G。
オッサンは内心少女の市場価格調査がザルだと思いました。
同情で買ってあげるとしても流石にこの値段では後が続かないし、
結晶稼ぎですら厳しいです。
『この武器は…どうやって仕入れているんだい?』
「毎朝素材を拾いに行って加工しているんです」
なるほど、朝早くから大変だね、苦労してるんだ…などと言うとでも思ったか!?
オッサンは内心叫びました。お前は炭鉱夫か?花摘みとはワケが違うんだぞ!?
そもそもピンポイントで素材を拾える訳がありません。
青い宝石を拾えるのは下手したら最前線です。
どうも少女はイカれているような気がしてきました。
『あー、あのな、とりあえず』
「はい?」
『拾ったもん加工すんな。バザーの最安値と同じ値段で売れ』
少女は翌日以降グレンに現れることはありませんでした。
めでたしめでたし。