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聖者

シーン

[シーン]

キャラID
: YX176-339
種 族
: エルフ
性 別
: 男
職 業
: 僧侶
レベル
: 130

ライブカメラ画像

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シーンの冒険日誌

2019-06-24 18:24:11.0 2019-06-24 18:36:02.0テーマ:その他

走れメラス(4)

  私は、今宵、BANされる。BANされる為に走るのだ。身代りのコインのようなトルネコを救う為に走るのだ。管理人の奸佞邪智を打ち破る為に走るのだ。走らなければならぬ。そうして、私はBANされる。若い時から名声レベルを上げろ。さらば、ふるさと。若いメラスは、つらかった。幾度か、切断しそうになった。よろしくお願いします、よろしくお願いしますと野良の心構えを張り上げて自身を叱りながら走った。

  村を出て、野を横切り、森をくぐり抜け、隣村に着いた頃には、ラグも止み、日は高く昇って、そろそろ暑くなって来た。メラスは額の汗をこぶしで払い、ここまで来れば大丈夫、もはや故郷への未練は無い。妹たちは、きっとゆうべはおたのしみになるだろう。私には、いま、なんの気がかりも無い筈だ。まっすぐに住宅村に行き着けば、それでよいのだ。そんなに急ぐ必要も無い。ゆっくり歩こう、と持ちまえの呑気さを取り返し、好きなアニソンを白チャで歌い出した。

  ぶらぶら歩いて二里行き三里行き、そろそろ全里程の半ばに到達した頃、降って湧いた災難、メラスの足は、はたと、とまった。見よ、前方の川を。きのうのメンテで山のグラフィックは不具合を起こし、濁流滔々と下流に集り、猛勢一挙に橋と同化し、どうどうと響きをあげるポリゴンくずが、木葉微塵に橋桁を跳ね飛ばしていた。

  彼は茫然と、立ちすくんだ。あちこちとスティック操作し、また、ゲームマスターを声を限りに呼びたててみたが、当直作業員は残らずバグ対応に浚われて影なく、インしてる人も見えない。ポリゴンはいよいよ、ふくれ上り、海のようになっている。メラスはバグ岸にうずくまり、男泣きに泣きながらアンザイに手を挙げて哀願した。

「ああ、鎮めたまえ、荒れ狂うポリゴンを!時は刻々に過ぎて行きます。太陽も既に真昼時です。あれが沈んでしまわぬうちに、住宅村に行き着くことが出来なかったら、あのガチフレが、私のためにBANされるのです。」

 ポリゴンは、メラスの叫びをせせら笑う如く、ますます激しく躍り狂う。ポリゴンはポリゴンを呑み、捲き、煽り立て、そうして時は、刻一刻と消えて行く。今はメラスも覚悟した。ぶつかるより他に無い。ああ、開発者も照覧あれ!バグにも負けぬ有料ベータテスターとリトライの偉大な力を、いまこそ発揮して見せる。

  メラスは、ざんぶとバグに飛び込み、百匹のスライムベホマズンのようにのた打ち荒れ狂うポリゴンを相手に、必死の闘争を開始した。渾身の力をこめて、押し寄せ渦巻き引きずるポリゴンを、なんのこれしきと掻きわけ掻きわけ、心頭滅却無念無想行雲流水の人の子の姿には、開発者も哀れと思ったか、ついに憐愍を垂れてくれた。押し流されつつも、見事、対岸の樹木の幹に、弾き飛ばされる事が出来たのである。ありがたい。

  メラスははげおたのように大きな胴震いを一つして、すぐにまた先きを急いだ。一刻といえども、むだには出来ない。陽は既に西に傾きかけている。ぜいぜい荒い呼吸をしながら峠をのぼり、のぼり切って、ほっとした時、突然、目の前に一隊の山賊ウルフが躍り出た。

「待て。」
「何をするのだ。私は陽の沈まぬうちに住宅村へ行かなければならぬ。放せ。」
「どっこい放さぬ。所持金の半分を置いて行け。」
「私にはいのちの他には何も無い。その、たった一つの垢も、これから管理人にくれてやるのだ。」
「その、ヤフオクで売りつける垢が欲しいのだ。」
「さては、管理人の命令で、実装されたイベントだな。」

 山賊ウルフたちは、ものも言わず一斉にアカシックソードを振り挙げた。メラスはひょいと、からだを折り曲げ、せいけん爆撃の如く身近かの一人に襲いかかり、そのアカシックソードを奪い取って、「おきのどくですがぼうけんのしょは消えてしまいました!」と猛然一撃、たちまち、三回攻撃し、残る者のやすむ隙に、さっさと走って峠を下った。

  一気に峠を駈け降りたが、流石に疲労し、折から午後(土日)のキッズ層のログインがまともに、かっとサーバーに負荷をかけてきて、メラスは幾度となく眩暈を感じ、これではならぬ、と気を取り直しては、よろよろ二、三歩あるいて、ついに、がくりと膝を折った。もはやタスクキルや再起動も出来ぬのだ。

  天を仰いで、くやし泣きに泣き出した。ああ、バグ流を泳ぎ切り、チート山賊を三人も撃ち倒し韋駄天、ここまで突破して来たメラスよ。しんのゆうしゃ、メラスよ。今、ここで、しんでしまうとはなさけない。愛するフレは、おまえを信じたばかりに、やがてBANされなければならぬ。おまえは、稀代の炎上案件、まさしくアフィブロガーの思う壺だぞ、と自分を叱ってみるのだが、全身萎えて、もはやキャタピラーほどにも前進かなわぬ。路傍の草原にごろりと寝ころがった。
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