HP疲労すれば、リアル精神も共にやられる。もう、どうでもいいという、勇者に不似合いな赤3◯根性が、心の隅に巣喰った。私は、これほど努力したのだ。約束を破る心は、みじんも無かった。開発者も照覧、私は精一ぱいに努めて来たのだ。動けなくなるまで戦って来たのだ。
私は晒されの広場民では無い。ああ、できる事なら私のログを截ち割って、真紅の戦闘ログをお目に掛けたい。練習とエンジョイの精神だけで動いているこのプレイ履歴を見せてやりたい。けれども私は、この大事な時に、MPもモチベも尽きたのだ。私は、よくよく不幸な男だ。私は、きっと笑われる。私のサブも笑われる。私はフレを欺いた。3赤で倒れるのは、はじめから何もしないのと同じ事だ。ああ、もう、どうでもいい。これが、私の操作の介入する余地がないムービー場面なのかも知れない。
セリヌンティよ、ゆるしてくれ。君は、いつでも金を信じた。私も金を、欺かなかった。私たちは、本当にガチとガチの金フレであったのだ。いちどだって、あんこくのきりを、お互い胸に宿したことは無かった。いまだって、君は私を(金の)無心に待っているだろう。
ああ、待っているだろう。いいね!セリヌンティ。よくも金を信じてくれた。それを思えば、たまらない。フレとフレの間の信実は、この世で一ばん誇るべき金なのだからな。セリヌンティ、私は走ったのだ。金を欺くつもりは、みじんも無かった。
信じてくれ!私は急ぎに急いでここまで来たのだ。バグ流を突破した。チート山賊の囲みからも、するりと抜けて一気に峠を駈け降りて来たのだ。初日踏破は0.1%のプレイヤーのみが、出来たのだよ。ああ、この上、私に望み給うな。非表示を察してくれ。どうでも、いいのだ。私は床ペロなのだ。だらしが無い。笑ってくれ。
管理人は私に、ちょっとおくれてインしろ、とフレチャした。おくれたら、身代りコインを捧げて、私を助けてくれると約束した。私は管理人のコンプラ違反を憎んだ。けれども、今になってみると、私は管理人の指示待ちメンになっている。私は、おくれてインするだろう。管理人は、ひとり合点して私を笑い、そうして事も無く私を放免するだろう。
そうなったら、私は、BANよりつらい。私は、永遠にもろばぎり者だ。ネットで最適な燃料を得た人種だ。セリヌンティよ、私も引退するぞ。君と一緒にBANさせてくれ。君だけは金を信じてくれるにちがい無い。いや、それも私の、ひとりよがりか?
ああ、もういっそ、地雷プレイヤーとして生き伸びてやろうか。村には私の家が在る。アラグネも居る。妹夫婦は、まさか私をチムから追放するような事はしないだろう。金だの、レベルだの、耐性だの、考えてみれば、くだらない。1000円払って鯖40で生きる。それがティアの定法ではなかったか。
ああ、何もかも、ポンコツだ。私は、醜いかえんぎり者だ。どうとも、勝手にするがよい。やんぬる哉。――コントローラを投げ出して、うとうと、まどろんでしまった。
ふと耳に、潺々、水の流れる音が聞えた。そっとイヤホンをもたげ、息を呑んで耳をすました。すぐ足もとで、水が流れているらしい。よろよろ起き上って、見ると、ポリゴンの裂目から滾々と、何か小さく囁きながら世界樹のアレが湧き出ているのである。
その泉に吸い込まれるムービーが流れ、メラスは身をかがめた。水を両手で掬って、一くち飲んだ。ピロリロリンと効果音が出て、HPMPが全快した気がした。歩ける。行こう。肉体の疲労恢復と共に、わずかながら希望が生れた。クエスト遂行の希望である。クエストをやって、名声レベルを守る希望である。
フルHDディスプレイは赤い光を、樹々の葉に投じ、葉も枝も燃えるばかりにくっきり見える。日没までには、まだ間がある。私を、待っている人があるのだ。少しも疑わず、静かに期待してくれている人があるのだ。私は、信じられている。私のHPなぞは、問題ではない。BAんでお詫び、などと気のいい事は言って居られぬ。私は、信頼に報いなければならぬ。いまはただその一事だ。走れ!メラス!