私はいいねされている。私はいいねされている。先刻の、あのリーネの囁きは、あれは夢だ。ダークドレアムだ。忘れてしまえ。五臓が疲れているときは、ふいとあんな合成失敗を見るものだ。メラス、おまえの恥ではない。やはり、おまえはしんのゆうしゃだ。再び立って走れるようになったではないか。
いいね!私は、バドとして床ペロする事が出来るぞ。ああ、陽が沈む。ずんずん沈む。待ってくれ、アンザイよ。私は生れた時から自分に正直な男であった。自分に正直な男のままにして死なせて下さい。
路行く人を押しのけ、跳ねとばし、メラスはバギムーチョのように走った。野原でイベントの、そのイベ席のまっただ中を駈け抜け、ボディガの人たちを仰天させ、ドラキーマを蹴とばし、討伐売りを飛び越え、少しずつ沈んでゆく太陽の、900%+100%(元気玉効果)も早く走った。
一団の旅芸人と颯っとすれちがった瞬間、不吉な会話を小耳にはさんだ。「いまごろは、あの男も、ブロガーにまとめられかかっているよ。」ああ、その男、その男のために私は、いまこんなに走っているのだ。その男をBANさせてはならない。急げ、メラス。おくれてはならぬ。金と誠の力を、いまこそ知らせてやるがよい。装備なんかは、どうでもいい。メラスは、いまは、ほとんど無耐性であった。特技は封印され、二度、三度、踊り転んだ。見える。はるか向うに小さく、メギスの市の塔楼が見える。塔楼は、夕陽を受けてきらきら光っている。
「ああ、メラス様。」うめくような声が、風と共に聞えた。
「誰だ。」メラスは走りながら尋ねた。
「トンヌラトスでございます。貴方のおガチフレセリヌンティ様の弟子でございます。」その若い道具鍛冶も、メラスの後についていくしながら叫んだ。
「もう、18分時点黄色でございます。しめるべきでございます。戦うのは、やめて下さい。もう、あの方をお助けになることは出来ません。」
「いや、システム的に言うとまだ陽は沈まぬ。」
「ちょうど今、あの方がBANになるところです。ああ、あなたはボミエった。おうらみ申します。ほんの少し、もうちょっとでも、床ペロ回数が少なかったなら!」
「いや、18時59分はまだ18時である。」メラスは胸の張り裂ける思いで、赤く大きい夕陽ばかりを見つめていた。走るより他は無い。
「やめて下さい。走るのは、やめて下さい。いまはご自分の垢が大事です。あの方は、あなたを信じて居りました。広場に引き出されても、平気でいました。管理人が、さんざんあの方をからかっても、金は来ます、とだけ答え、強い残念を持ちつづけている様子でございました。」
「それだから、走るのだ。いいねされているから走るのだ。間に合う、間に合わぬは問題でないのだ。人の垢も問題でないのだ。私は、なんだか、もっと恐ろしく大きい世間体の為に走っているのだ。ついて来い!トンヌラトス。」
「ああ、あなたは煽り混乱耐性0か。それでは、うんと走るがいい。ひょっとしたら、間に合わぬものでもない。走るがいい。」
言うにや及ぶ。まだ陽は沈まぬ。最後の死力を尽して、メラスは走った。メラスのログは、からっぽだ。何一つ書いていない。ただ、乗るしかないこの大きなビッグウェーブにひきずられて走った。陽は、ゆらゆら地平線に没し、まさに最後の一片のポリゴンも、消えようとした時、メラスは疾風突きの如く広場に突入した。間に合った。