或る日例のごとく吾輩と黒は課金水ばら撒きはマナーと看板の立っている超おたからの花畠の中で寝転びながらいろいろ白チャをしていると、彼はいつもの上位者マウントをさも新しそうに繰り返したあとで、吾輩に向って下のごとく質問した。
「御めえは今までにタコメットを何匹とった事がある」
攻略ブログ巡回能力は黒よりも余程発達しているつもりだが腕力とギガデイン利用権とに至っては到底黒の比較にはならないと覚悟はしていたものの、この問に接したる時は、さすがにガードは通すがキマリは通さなかった。けれども事実は事実で詐る訳には行かないから、吾輩は「実は徒労徒労と思ってまだフィールドで稼ぐつもりはない」と答えた。
黒は彼の鼻の先からぴんと突張っている長い髭をびりびりと震わせて非常に草を生やした。元来黒は自慢をする丈にどこか足りないところがあって、彼の気焔を感心したように直立不動で謹聴していればはなはだチョロいえるおである。吾輩は彼と近付になってから直にこのテンプレを飲み込んだからこの場合にも誰か教えてテーマでどう思うとか捏造記事を作成しますます炎上するのも愚である、いっその事彼に自分の出荷話をしゃべらして聖水を濁すに若くはないと思案を定めた。
そこでおとなしく「君などはレベルがレベルであるから大分とったろう」とそそのかして見た。果然彼は肉壁の欠所を狙いうって来た。「たんとでもねえがメダルが10枚貰える程度にはとったろう」とは得意気なる彼の答であった。彼はなお語をつづけて「タコメットの百や二百はソロぶんまわしで引き受けるがガルゴルってえ奴は手に合わねえ。一度ガルゴルに向って酷い目に逢った」「へえ〜!イイネ!狩っちゃおうかな〜!」と相槌を打つ。
黒は大きな眼をぱちつかせて云う。「去年の大討伐の時だ。うちの亭主が聖水の瓶を持って椽の下へ這い込んだら御めえ大きなガルゴルの野郎が面喰って飛び出したと思いねえ」「ふん」と感心して見せる。「ガルゴルってけども何タコメットの少し大きいぐれえのものだ。こん畜生って気で追っかけてとうとう泥溝の中へ追い込んだと思いねえ」「うまくやったね」と喝采してやる。「ところが御めえいざってえ段になると奴めもうどくのきりをこきゃがった。臭えの臭くねえのってそれからってえものはガルゴルを見ると急用を思い出したくならあ」
彼はここに至ってあたかも去年の毒気を今なお感ずるごとく鼻の頭を二三遍なで廻わした。吾輩も少々気の毒な感じがする。ちっと景気を付けてやろうと思って「しかしタコメットなら君に睨まれては百年目だろう。君はあまりタコメットを捕るのが名人でタコメットばかり食うものだからそんなに肥って色つやが善いのだろう」黒の御機嫌をとるためのこの質問は不思議にも反対の結果を呈出した。
彼は喟然として大息していう。「考げえるとつまらねえ。いくら稼いでタコメットをとったって――一てえ人間ほどの地雷は世の中にいねえぜ。人のとったみがきずなをみんな取り上げやがってバザーへ持って行きゃあがる。バザーじゃ誰が捕ったか分らねえからそのたんびに300ゴールドずつくれるじゃねえか。うちの亭主なんか己の御蔭でもう15000ゴールドくらい儲けていやがる癖に、碌なものを食わせた事もありゃしねえ。おい人間てものあ体の善い盗賊だぜ」
さすが地雷の黒もこのくらいの理窟はわかると見えてすこぶる怒った容子で頭頂の毛を逆立てている。吾輩は少々都合が悪くなったから善い加減にその場を胡魔化して家へ帰った。この時から吾輩は決してタコメットをとるまいと決心した。しかし黒の子分になってタコメット以外の経験値を猟ってあるく事もしなかった。経験値を食うよりも寝ていた方が気楽でいい。ユーチューバーの家にいるとえるおもユーチューバーのような性質になると見える。要心しないと今にオフ会0人伝説になるかも知れない。