『木屑と夢とショコラの机』
ショコラは、コトンと軽い音を立てて木工刀を置いた。
「……レベル18!」
その瞬間、まるで自分の中の何かがカチリと噛み合った気がした。人間の小さな体が、少しだけ大きくなったような気分だった。
木工職人としての修行を始めて、もう三ヶ月。最初は棒を作るだけで失敗して、木くずまみれになって泣いた夜もあった。それでも諦めなかったのは――
「いつか、自分の家具を、自分の手で作って、マイタウンに並べたいから!」
その夢だけは、ずっと胸の奥でくすぶり続けていた。
港町レンドアの木工ギルドの作業台には、今日も先輩たちがひしめいていた。ひのきの棒から始まり、今では「せいれいの杖」や「やすらぎのベッド」を作る熟練職人たちの間で、ショコラはぽつんと一人、作業台の端にいた。
「まだ家具は作れないんだね……」
レベル18では、ようやく「木製ベンチ」や「小さな本棚」といった入門家具の図案がちらほら見えてきた段階。けれど、ショコラが本当に作りたいのは――「物語のある家具」。
カナさんのマイタウンで見た、「ベロニカの本棚」「シルビアの化粧台」。あれは、ただ置かれているだけじゃなく、まるでキャラクターがその場に住んでいるような空間をつくっていた。
「私も、あんな風に、誰かの思い出になる家具を作りたい……!」
作業台の上にある、失敗作の木材を手に取る。斜めに切れた脚、不揃いな天板。だけどショコラは、そこに新しい可能性を見つけた。
「これ、もう一度削り直せば……ミニ机になるかも」
彼女の手が自然と動いた。ギルドの灯りが、木目にそっと影を落とす。
次の日も、そのまた次の日も、ショコラはギルドに通い続けた。レベルは少しずつ上がった。19、20、21。
「ショコラちゃん、ずいぶん上達したね。最近、木くず少なくなったでしょ?」
隣の台で作業していた先輩のエルフが声をかけてくれた。
「はい、少しだけ。でも、まだ“あの家具”には届かないんです」
「“あの家具”?」
「……キャラクター家具。ベロニカの本棚とか、シルビアの化粧台とか……」
「なるほど、それを作りたいのか。じゃあ今は、基礎を大事にしなきゃね」
その言葉に、ショコラはうなずいた。
「はい! ベンチでも本棚でも、ひとつずつ、心を込めて作ります!」
レベル25になった頃、ショコラは初めてギルド長から特別な課題をもらった。
「君の机を作ってみなさい。“ショコラの机”を」
「えっ……わたしの?」
「そう。見本じゃなく、レシピでもなく、君自身の発想と技術で“誰かの思い出になる家具”を」
それは、彼女が最初に夢見た“物語のある家具”への第一歩だった。
数日後――。
ギルドの中央に、一つの小さな机が完成した。高さは少し低め、でも安定感があって、引き出しは左右に一つずつ。角にはちょこんと猫耳のような装飾、脚の裏にはスライム型の彫刻。
天板にはうっすらと、ショコラの手で彫られた言葉が浮かんでいた。
「わたしの夢、ここからはじまる」
ギルド長がじっと見つめ、ふっと笑った。
「いい家具だ。見た人の心に、あたたかい記憶を残す。これが家具職人の仕事さ。君は、立派な職人になったね」
「ほんと……ですか?」
「うん、胸を張っていい」
ショコラの頬がぽっと赤くなった。涙がこぼれそうになるのを、そっと袖で拭いた。
その日、ショコラは作った机を持って、自分のマイタウンに帰った。まだ何も置いていない、がらんとした家の一室。その中央に、そっと“ショコラの机”を置く。
「ここから、わたしの家具の旅が始まるんだね」
窓から差し込む夕陽が、机の木目にあたたかく光った。
――レベル18だったあの日から、ショコラの物語は今、ようやく本当の“はじまり”を迎えたのだった。

たのしい~♪