[注意]
①を読んでいない方は先にそちらからどうぞ
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てっきり褒められると思い緩み切ったアラメの精神に、ストレートな罵倒が突き刺さる。アラメは困惑の表情をシエルに向けることしか出来なかった。
「あんな落書きの総集編、売れるとでも思ったのですか 全く...あんな紙の無駄遣いでしかない本を売るなど、物書きとして恥ずかしくないんですか」
初対面にも関わらず、言葉を一切選ばない、かつ容赦のない本への批判。突如見知らぬ奴からぶつけられたその批判によりアラメの困惑は深まるばかり。
「まずですよ、何ですかあの情報量の無さは 読者をどれだけ舐めればこんな書き方が出来るんです? 出典も未記載、ただ載っているだけ......こんなの私でも書けます」
「なっ.....そんなに簡単に書け」
「それに、どうして絵の1つも載っていないのです? 図鑑のような形式の本だというのに、これでは子供でも読みたがりませんよ」
やっと状況が飲み込めたようで、反論を始めようとするアラメ。しかし白髪の評論家は一切の反論を許すことなく、まるでそうすることが当たり前であるかのように批判を続ける。
「順番も雑です こういうのは危険度順だとか五十音にするものでしょう どう好意的に見ても見つけた順からパパッと並べたようにしか見えませんが」
「それは地域ごとに」
「であれば、最初にエルトナ最北の地域の怪異を挙げておいてその次は最南端の地域の怪異を紹介.....そんな気持ちの悪い順番を採用した理由を懇切丁寧に教えていただきたいものです」
アラメの反論は言い終える前に叩き潰し、批判を続行するシエル。アラメの目にはもはや先ほどの輝きは無く、自身の著書を徹底的に貶されていることに対する怒りの涙が溜まっていく。シエルはそんな彼女の顔には目も向けず、偉そうに足を組んで椅子に座りながら紅茶のカップに視線を向け、ほぼ罵倒の批判を続けていく。
「タイトルも最悪です 「怪談全集」って.....エルトナの怪談しか乗っていないのに何が全集ですか もはやただの詐欺ですよ」
「基本的に怪談はエルトナのものがほとんどで.....!」
「全集の全は全て、つまり100%を意味します ほとんどで全集を名乗る資格などないのですよ どうせ金が欲しくてこの本を書いたのでしょうが、本の書き方に下心が見え見えです」
もはやアラメは我慢の限界を迎えていた。鉄扇を懐から取り出して右手に持ち、シエルの鼻先へ向ける。それに気づいたシエルはやっとアラメの顔に目線を合わせた。
「貴様如きの若僧に......!素人に.......!!儂の....!儂の作品を貶す権利なぞ...無い!!」
シエルを黙らせるべく鼻目掛け思いっきり鉄扇を振りかぶろうと腕を動かした瞬間....鼻先へ向けての右ストレートを喰らい、椅子から転げ落ちた。床には鼻血が飛び散っている。
「ハァ.......物書きなど奇人の集団だとは思ってはおりましたが、まさかこの私に対して実力行使とは 思い上がったものですね」
立ち上がり、カウンターを飛び越え、冷たい目でアラメを見下ろすシエル。その冷たい目線により、更にアラメの怒りを買うこととなった。
「何様のつもりだ!!!貴様ァーーッ!」
立ち上がりつつ鉄扇を顔目掛け振り上げようとしたが、あっさりと着物の襟を掴まれて力任せに投げられ、背中をカウンターに叩きつけられてしまった。
「お...のれ...ぐふぉっ!?」
カウンターの中へ入り込み、反転の後に立ちあがろうとした瞬間、今度は左頬に右フックを喰らい、よろめいた。その瞬間に今度は首根っこを掴まれて引き寄せられ、首を離された瞬間に左手でのアッパーを喰らい、そのまま壁に叩きつけられへたりこんだ。
一応、アラメは冒険者としての仕事もしているが...本職は文化学者。一方のシエルは職業パラディンの正真正銘の武闘派。もはや勝敗など明らかであるが...そんな観察眼も彼女は持ち合わせていなかった。
「お...おのれェ!!」
最早ただのヤケとなり、持っていた鉄扇を投げつけようとするアラメ。しかしまたもシエルが速かった。カウンターの飾り柱内にある隠しスペースから拳銃を取り出し、アラメの頭に向ける。
「ク........」
「戦えるといえども、所詮はただのフィールドワーカー この私に勝とうなどと無茶な話です」
やり手の冒険者ならばこの状況でもやりようはあるだろう。しかし彼女は実力で言えば中の下。とてもこの状況から抜け出す力は持ち合わせていない。つまり「詰み」だ。