「オーホッホ、悪役令嬢ですの」
「オーホッホ! この私に逆らうなんて100年早くってよ!」
おさかなの私は、蝶のパーテーションの前で高笑いのポーズを決める。こんなふうに“悪役令嬢ごっこ”をしているときだけ、少しだけ胸の空洞が埋まる気がする。
――小説なら、思いのままだ。
イケメン王子も、破滅寸前の許嫁も、性格のいい聖女様も。世界を変える魔法も、心を癒す友達も。全部、登場させられる。思い描いた通りのキャラを、自分の“世界”に呼び寄せられる。
だけどゲームでは、そうもいかない。
ログインしても、誰かが話しかけてくれるわけじゃない。家を飾っても、訪問者はゼロ。クールに着飾って、ソロでストーリーを進めても、画面の向こうは静かすぎる。
「やっぱり、私……さみしいんだな」
誰にも見られない部屋で、ぽつりとつぶやく。
ドラクエ10は好き。でも、好きだけじゃ埋まらないものがある。課金して、かわいい服を揃えて、家具も庭具も完璧にして――それでも心にぽっかり穴があいてる。
だったら、戻ろう。
私には、小説がある。アルファポリスに投稿してたあの場所に。誰も見てくれなくても、ひとりじゃなくなる気がするから。物語の中では、悪役令嬢にも、恋する乙女にも、世界を救う勇者にもなれる。
そうだ、書こう。また。
そして、今度こそ物語の中だけでも、誰かと手を取り合って笑いたい。
「オーホッホ……私のターンですわね」
高笑いのポーズをキメながら、私はルーラストーンを握りしめた。現実に少し疲れたこの心を、フィクションという翼で、もう一度遠くへ運ぶために。