季節のふすま、君とわたしの夏
「今日も、暑くなるねぇ……」
おさかなの彼女は、ひらりとスカートを揺らしながら、縁側のような和室に座った。夏仕様に変えたばかりのふすまには、金魚がすいすい泳いでいる。水の輪が涼しげに広がり、見ているだけで汗が引いていくようだった。
「いいね、このふすま。金魚って、見てるとなんだか泣きたくなる」
「……泣きたいの?」
「ううん、懐かしくなるの」
そう言って、彼女は座布団にぽすんと倒れこんだ。わたしは隣に座りながら、かき氷の器をそっと差し出す。ゲームの中なのに、なんでこんなに“夏”が香るのだろう。セミの声も波の音もないのに、ちゃんと季節が流れていく。
「DQの世界は、時間も天気も選べるけど……」
「でも、季節のうつろいって、自分の心が決めるのかもね」
イベントのたびに着替え、庭も家具も季節に合わせて模様替えする。リアルの四季とはズレているかもしれないけれど、だからこそ自由に“自分だけの季節”を楽しめる。
「ねぇ、秋になったら、ふすまは紅葉にしようよ」
「冬は……雪の結晶?」
「春はね、桜。ぜったい桜」
彼女の声は弾み、目がきらりと輝く。まるで金魚が水面から飛び跳ねたみたいに。夏は、ふたりだけの和風ハウスを優しく染めて、涼やかな思い出を重ねてくれる。
「この部屋さ……君と一緒に季節を回したくて、作ったんだ」
「うん……知ってたよ」
そう言って彼女は、ふすまに描かれた金魚のひとつをそっと指でなぞった。そこには、ちゃんと、ふたりの時間が泳いでいた。