エピローグ① — 火が消える夜
「こんばんは、みるくです。見て、ハロウィン仕様に模様替え――」
言いかけた途端、庭のかぼちゃランタンがふっと暗くなった。赤い葉がするりと舞い、夕風がマントの裾をくすぐる。甘いシナモンの匂いは屋台から、土の匂いは落ち葉から。なのに灯りだけが、息をひそめる。
「合言葉は?」小さな相棒モフが、どんぐり帽子を揺らす。
「トリック・オア・トリート……でしょ」
「せいかーい!」ぱちぱち跳ねる音が可笑しい。
「みるく!」門の外でシオンが手を振る。白い息がほどけ、靴が枯れ葉をかさりと鳴らした。
「飾りつけ、天才。けど――」彼はランタンを覗き込む。「火、すぐ消えるね」
「風のせいだけじゃない気がするの」杖の先でそっと触れると、オレンジがまた弱まった。胸の奥まで冷えていくみたいで、私は思わず息を止める。
屋台から「スライム型マシュマロ焼けたよー!」と声。焦げ砂糖の甘い匂いが広がり、モフの尻尾がブンブン振れる。
「あとで食べよ。まず、この火の謎を……」
ぱちん。音と同時に、ランタンは完全に闇へ。庭の色が一段冷たくなり、遠くの太鼓だけが心臓みたいに響いた。
「ね、やっぱ変だよ」シオンの声が低くなる。
私は頷き、耳を澄ます。――かさ、かさ。灯の奥で、何か小さな影が動いた。
つづく:影は、火の匂いを連れて逃げた。

エピローグ② — 灯りどろぼう
「見た?」
「今、見た。あっち!」
影は紫の小瓶を抱え、裏路地へ。私とシオンは駆けだす。土の匂いが舞い上がり、落ち葉が靴底にまとわりつく。モフは「待ってぇ!」と短い足で追いすがり、どんぐり帽子が上下に弾む。
突き当たりの古い井戸。石の冷気が夜の湿りを吐き、指先が冷える。
振り返った影は、掌サイズの小鬼……いや、“灯りどろぼう”だ。お面の奥の目がきらり、小瓶の中ではランタンの火花がぴちぴち跳ねている。
「返して」
「やだ。祭りの夜は暗い方がたのしいの」鼻にかかった声。
「みんな怖がるよ」
「怖がらせるのが祭りでしょ?」
「うん、でも“笑える範囲”が大事」私は息を整え、杖を下ろす。「交換しよう。いたずらの代わりに、ちゃんと驚ける演出をあげる。火は返して」
「演出?」
「即興ですか、主役さん」シオンが半笑い。
私は耳もとで小さく呪文を転がす。杖先から細い光がほどけ、路地の枯れ葉に触れる。ひゅう、と風が一段冷たくなり、赤い葉がふわり――やがて庭いっぱいへ舞い上がった。
「わぁ……!」モフの声が澄む。
葉は空中で金色に透け、組み合わさって一匹の猫の影をつくる。尾が灯心のように灯り、瞬きにあわせて鈴のような音がした。
「どう?」
「きれい……」灯りどろぼうの肩が落ち、小瓶がぐらり揺れる。
つづく:火は帰る? それとも――。