❄️ アストルティアの白い朝
キィィィ……。
雪を踏みしめるブーツの底から、冷たい音が響いた。空はまだ白み始めたばかり。辺りには、早朝特有の清涼で鋭い空気が満ちている。ウェンディ―は深く息を吸い込む。吐き出した息が、すぐに白い霧となって消えた。
「うふふ、さっむい!でも、この匂い……最高に**“特別な朝”の匂い**だわ!」
白いファーがあしらわれた衣装に身を包んだウェンディ―は、両手を広げて大きく背伸びをした。目の前には、雪化粧をした大きな木造の家屋。そして、その両脇を飾る、鮮やかなアイスブルーのクリスマスツリーが二本。ゴールドのリボンとオーナメントが、朝日を反射してキラキラと輝いている。
(まぶしい!この輝きを見ていると、胸の奥がキュンって締め付けられるみたい!)
ツリーの合間、空中に浮かぶ巨大な雪の結晶のイルミネーションが、まるで生きているかのようにゆっくりと瞬いている。
「ねえ、みるく!」
ウェンディ―は足元を見た。白い雪の上に、チョココロネのような姿をした緑色のプクリポ、みるくがちょこんと立っている。
「ミル(なんだよぅ、ウェンディ―。朝っぱらから、うるさいぞぅ)」
みるくは不満げな声を上げ、寒そうに体を丸めた。その丸まった姿が、ウェンディ―には可愛くて仕方がない。
「うるさいって言わないの。今日は何の日?」
「ミル……(知ってるよぅ、クリスマスだろぅ)」
「正解!アストルティアで迎える、一番ロマンチックな朝よ!」ウェンディ―は弾けるような笑顔を見せ、くるりと一回転した。スカートの裾が、ふわりと軽い布の音を立てる。
彼女は雪の上に飛び出し、雪の感触を確かめた。ブーツが雪に沈み込む、ザクッ、ザクッという音が、静かな世界に心地よく響く。
「この雪の感触!手袋の上からでも、冷たさが伝わってくるわ。ほら、みるくも、もっと雪と戯れなきゃ!」
「ミルミル!(嫌だぁ、冷たいのは苦手だぞぅ)」みるくはさらに体を丸め、ウェンディ―から遠ざかろうとした。
ウェンディ―はそんなみるくを無視して、空を見上げた。
太陽が完全に昇りきり、空の色が濃いブルーから、透明な水色へと変わっていく。その光の中で、彼女は改めてツリーの美しさを認識した。
「すごい。あのゴールドのリボン、砂糖菓子みたいに甘い香りがしてきそう……って、実際にはしないんだけどね!」
ウェンディ―は、この光景をずっと前から夢見ていた。雪と光と、愛する仲間と。
彼女は再び両腕を大きく広げ、その美しさを全身で受け止めた。白い衣装に、ツリーやイルミネーションの光が反射し、彼女自身が光の粒になったようだ。
「よし!決めた!」
ウェンディ―は勢いよく地面を踏みしめた。
「みるく、行くわよ!この景色、みんなにも絶対見せなきゃ損よ!さあ、早くチムチャ(チームチャット)で起こしに行くわ!」
「ミルミルミル!?(えぇ!?これから寝ようと思ってたのにか!?)」
みるくの悲鳴にも似た声を背中に、ウェンディ―は駆け出した。その心には、冷たい空気とは裏腹の、温かく高鳴る幸福感が溢れていた。彼女にとって、この冬の朝の輝きは、最高のクリスマスの贈り物なのだ。