鋼の心、冬萌の恋
「……よし、これでレベル138だ。戦士として、ようやく一角の男になれたかな」
手元のデバイスを閉じ、僕は深く息を吐いた。窓の外は、静寂がすべてを飲み込むような大雪だ。**正月**の喧騒もとうに過ぎ去り、小正月の今日は、ただひたすらに空気が**冴ゆ**る。
「おめでとう、晴希。レベル上げ、ずっと頑張ってたもんね」
炬燵の向かい側で、冬香が少し眠そうに目を細めた。彼女の肌は雪のように白く、窓の外で吹雪に紛れる**雪女**が、もしや実在するのではと思わせるほどに透明感がある。
「でも、ゲームの中だけじゃなくて、現実でも動かないと体が鈍るわよ。今日は**初稽古**の日なんだから」
「わかってる。この**寒**(かん)の最中に道場へ行くのは、なかなかの修業だけどな」
僕は**懐手**をして、炬燵の魔力に抗おうともがく。庭の**冬木立**には、一羽の**寒禽**(かんきん)が身を縮めて止まっていた。その健気な姿と目が合い、僕は観念して立ち上がる。
道場への道中、ふと見上げると、雲の切れ間に**富士山**が白銀の冠を戴いてそびえ立っていた。
「見て、冬香。あんなに凛としてる」
「本当……。あの山みたいに、揺るがない強さが欲しいわね」
道場の床は、氷のように冷たかった。足の裏から突き抜けるような冷気が、眠っていた闘争心を呼び覚ます。
「さあ、いくわよ!」
冬香の鋭い気合が響く。彼女の踏み込みは、獲物を狙う**鷹**のごとき速さだ。
竹刀が交差するたび、乾いた音とともに火花が散る錯覚に陥る。面越しに見える彼女の瞳が、熱を帯びて僕を射抜く。
「……レベル138の戦士様が、この程度?」
「っ、言うね。ここからが本番だ!」
汗が飛ぶ。冷気で白くなった息が、二人の間で激しく混じり合う。厳しい寒さの中だからこそ、お互いの体温が、命の鼓動が、痛いくらいに鮮明に伝わってきた。
稽古の帰り道。
**日脚伸ぶ**。少しだけ長くなった夕刻の光が、雪道をオレンジ色に染めていた。
「……お腹、空いた」
冬香が僕の道着の袖を引く。その指先が、稽古の熱のせいか、それとも別の理由か、微かに震えていた。
「今夜は**紅葉鍋**にするって、母さんが言ってた。一緒に食おう」
「……うん。楽しみ」
彼女の手を、僕は思わず握りしめた。
かじかんだ指先に、彼女の熱がじわりと伝わっていく。それは、厳しい冬の土の下で、ひっそりと春を待つ**冬萌**(ふゆもえ)の温もりに似ていた。
「晴希……手、あったかいね」
「戦士だからな。守るべき相手がいると、熱くなるんだよ」
軽口で誤魔化したけれど、僕の心臓は、レベルアップのファンファーレよりも激しく鳴り響いていた。