「……来るよ。空、読めてる」
砂混じりの風が頬を叩き、鼻の奥に焦げた雷の匂いが残っている。
私は杖を握り直し、指先に走る微かな痺れを確かめた。天地雷鳴士――空と地の機嫌を伺い、声を通す役目。軽口みたいに聞こえるけど、失敗すれば全部が裏返る。
「了解。カカロン、前。バルバルー、私の影から離れないで!」
声に応えて、精霊が笑った。乾いた音。鈴みたいで、でも刃物みたいだ。
敵が踏み込む。土が沈み、鈍い振動が靴底から膝に来る。心臓が一拍遅れて追いつく。
「今!」
雷が落ちた。
白くて、熱くて、音が遅れてやって来る。鼓膜が震え、胸の奥まで鳴った。焼けた空気の味。舌が痺れる。
「いいね、その間合い!」
仲間の声が背中を叩く。私は息を吸う。吸いすぎると泣きそうになるから、半分で止める。
精霊の足音が近い。砂を踏む音がやけに優しい。
「……大丈夫?」
「うん。まだ、行ける」
最後の一撃。地が唸り、空が割れる。
敵が崩れ落ちる瞬間、世界が一拍、静かになった。
――ピロン。
その音が、全部を連れてきた。
「……え?」
視界の端で、数字が跳ねた。
「レベル……百三十八?」
喉が詰まる。笑おうとして、変な音が出た。
「やった、ね」
「やったじゃん! ほら、立って。顔、赤いよ」
風が冷える。汗が背中で冷たくなる。
私は杖に額を預けた。木の匂い。馴染んだ重さ。指の皮が少し硬くなってる。
「天地雷鳴士、百三十八。……ここまで来たんだ」
声に出すと、胸がじんわり熱い。誇らしいとか、強くなったとか、そういう言葉じゃ足りない。
怖かった時間も、外した詠唱も、精霊に助けられた夜も、全部が一つの音に束ねられた感じ。
「次、どうする?」
「……もう一戦。空、まだ機嫌いい」
私は笑った。雷の残り香が、まだ好きだ。
この世界――ドラゴンクエストXで、私は今日も声を投げる。空と地が、応えてくれる限り。