「……は?」
画面の中央で、金色の文字が弾けた。
レベルが 138 に あがった!
一瞬、指が止まる。
コントローラーを握る手のひらが、じっとり汗ばんでいるのに気づいて、遅れて息を吐いた。
「やっと……やっとだよ」
スピーカーから流れる勝利音が、部屋の空気を震わせる。
深夜のリビング。エアコンの風は少し冷たくて、目の奥がじんと痛い。
でも、その全部が今は心地いい。
「おつかれさま、バトマスさん」
ヘッドセット越しに、フレの声。
軽いけど、ちゃんと分かってる声。
「いや、まだ信じられない。138だよ?」
「昨日まで137で、あとちょっとが遠かったくせに?」
「そう! あの“あとちょっと”がさ……」
思い出すだけで、胸の奥がきゅっとなる。
全滅。蘇生。葉っぱ。しずく。
敵の一撃で赤く点滅するHPバー。
あの時の耳鳴り。指先の冷え。
「無理かな、って思った?」
「思ったよ。正直。もう寝ようかなって」
「でもやった」
「……うん。バトマスだから」
画面の中で、キャラが大剣を肩に担いで立っている。
重そうなのに、誇らしげで。
その姿を見て、なぜか喉の奥が熱くなった。
「バトマスってさ」
「ん?」
「脆いし、忙しいし、ミスったら一瞬で床じゃん?」
「それが?」
「でも、一番“生きてる感じ”するんだよ」
会心の音。
ザシュッ、という重い斬撃音が、まだ耳に残っている。
あの一撃で流れが変わった。
全員が前を向いた。
「138、おめでとう」
フレの声が、少しだけ柔らかくなる。
「ありがとう。……また次、行く?」
「聞くまでもないでしょ」
私はもう一度、コントローラーを握り直す。
手のひらの熱。
画面の光。
胸の奥の、静かな達成感。
これはただのゲーム。
でも、今この瞬間だけは確かに——
「バトルマスター、まだ走れるよな」
「当たり前じゃん」
次の戦場へ。
レベル138の音が、まだ心臓と同じリズムで鳴っていた。
(ドラゴンクエストX)

さみしいジュレット