## 題名:**「空っぽの鎧と、身に余る138」**
「ガラン……」
静まり返ったラッカランの住宅街。重厚なプラチナの鎧を脱ぎ捨てた拍子に、石床が鈍い悲鳴を上げた。パラディンの正装は、脱いでなお、持ち主の体温を頑固に拒むような冷たさを保っている。
「138……か。笑っちゃうよね、本当に」
指先でそっとなぞった「経験値の通帳」。そこには、戦いの記憶などひとかけらも宿っていないはずの、整然とした数字が並んでいた。預けておいた経験値が、本人の知らないところで勝手に私の背を押し上げ、気づけば「守護の騎士」としての頂に近い場所に立たせていた。
喉の奥に、苦い鉄の味が広がる。
「スキルなんて、皆無なのにさ。重さの調整も、相撲の駆け引きも、何一つ身体は覚えてない。ただ、数字だけが鎧を重くしていくんだ」
部屋の隅に置いた大きな盾。使い込まれた形跡のないその表面に、月明かりが冷ややかに反射している。本当のパラディンなら、この盾には幾多の衝撃が刻んだ傷跡があり、裏側には必死に食いしばった汗の匂いが染み付いているはずだ。
けれど、私の盾はいつだって磨き立ての鏡のように、情けないほど滑らかだった。
「ねえ、変な奴だと思わない? 誰も守れないくせに、守るための力だけを貯金してるなんて。滑稽すぎて、涙が出るより先にため息が出ちゃうよ」
独り言が、冷えた空気の中に白く溶けていく。
さっき、酒場の喧騒で誰かが言った。「レベル138のパラディンがいれば、どんな強敵でも安心だね」という、悪意のない、真っ直ぐな信頼。
その言葉を浴びた瞬間、心臓の奥がキュッと締め付けられた。
嬉しいわけがない。むしろ、肌にまとわりつく湿った不快感のような恐怖があった。
「すごいですね」と言われるたび、自分の中身がスカスカの空洞であることが露呈しそうで、背中に嫌な汗が伝う。期待という名の熱に晒されるほど、私は私自身の重さに耐えきれず、どこか遠くへ逃げ出したくなる。
「寂しいんだよ。本当は。この空っぽの数字を、誰かに『それでもいいよ』って笑ってほしい。でも、実際に人と向き合えば、期待に応えられない自分に疲れ果てて、結局こうしてドアを閉める」
部屋に漂うのは、わずかな香油の匂いと、静まり返った無機質な時間の感覚。
私は、冷たい鎧の籠手を再び手に取った。金属のザラりとした質感が、震える指先に「お前はここにいる」と現実を突きつけてくる。
「通帳に溜まったのは、経験値じゃない。ただの、嘘の積み重ねみたいなもんだ」
けれど、その嘘に縋らなければ、私はこのアストルティアの荒野に立っていることさえできない。
明日になれば、また「138」という数字を鎧のように着込んで、誰かの前に立つ。中身が空っぽであることを必死に隠しながら、それでも、この重たすぎる盾を捨てられずにいる。
窓の外では、精霊たちの気配を孕んだ夜風が、優しく、けれど残酷に吹き抜けていった。

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