「……っ、よし! 入った!」
カンカン、と軽快な音が鍛冶ギルドの熱気の中に響く。
お魚姿の「みるく」は、額に浮かんだ汗をぬぐいもせず、完成したばかりの防具を目の高さに掲げた。火花の散る炉の熱気が、ウェディ特有のしなやかな肌をじりじりと焼くが、今の彼女にはその熱ささえも心地よい。
「見て、これ! あとちょっと……あと少しで、あの『80』に手が届くよ!」
手元の経験値ゲージが、静かに、だが力強く光る。レベル78。かつては遠い空の向こうにある座標のように思えた「カンスト」の数字が、今はもう、手を伸ばせば指先が触れるほどの距離にある。
「始めたばかりの頃はさ、ハンマーの重さに振り回されて、鉄を叩くっていうより、鉄に叩かれてるみたいだったよね」
みるくは、使い慣れたハンマーの柄を愛おしそうになぞる。木目の節々に、これまでの苦労と歓喜の記憶が染み付いている。
冷たい鉄が熱を帯び、真っ赤に溶け、叩くたびに形を変えていく。その瞬間の、指先に伝わる「しなり」と「抵抗」。会心のてごたえが来た時の、脳を突き抜けるような高揚感。
「お魚の私にとって、このギルドの熱気はちょっと暑すぎることもあるけど……。でもね、ここで皆と競い合って、最高の防具を打ち出している時だけは、自分の中の何かが熱く燃えてるのがわかるの」
ギルドの片隅では、今日も仲間たちが火花を散らしている。重厚な鎧、煌びやかな盾。誰かの命を守るための「作品」を作り上げることの誇り。
彼女は、ふと窓の外を見た。ドルワームの大地に吹く風が、微かに熱気を奪っていく。
「レベル80になったら、どんな景色が見えるかな。きっと今よりもっと、鉄の心がわかるようになるよね。エカキさん、楽しみにしてて。私、最高の一品を打てるようになるから!」
みるくの瞳に、炉の炎がキラキラと反射する。それは野心というより、純粋な「職人の喜び」の輝きだった。
「さあ、休憩はおしまい! 次の一打、気合入れていくよ!」
再びハンマーが振り上げられる。一打ごとに、理想の自分へと近づいていく確かな手応え。お魚さんのみるくの冒険は、この熱い鉄の匂いと、確かな重量感の中にこそあった。
「カンストまで、あと一歩。……ふふっ、待ってなさいよ、80!」
ギルドに、今日一番の澄んだ音が響き渡った。

うふふ♡
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