マイメロディ・ブラックスミス ―みるくのピンクな反乱―
防具鍛冶ギルドの熱気の中に、突如として「場違いなほどかわいい」旋風が巻き起こった。
いつもは地味な職人服に身を包んでいるお魚の「みるく」が、今日は真っピンクの頭巾をかぶり、フリルたっぷりのエプロンドレスをなびかせて炉の前に立っていたのだ。
「……みるく、それ、どうしたんだ?」
ギルドマスターが呆然と声をかける。みるくは、マイメロディのアイコンが描かれた特注のハンマーを軽々と肩に担ぎ、いたずらっぽく笑った。
「これ? 『マイメロディ・コスプレスラスト』っていう最新の職人スタイルだよ! かわいい格好で打つと、鉄だってきっとメロメロになって、勝手に★★★(星3)になっちゃうんだから!」
「……スラスト(推力)って、そういう意味じゃないと思うが」
そんな周囲の困惑をよそに、みるくは炉に向き直る。
真っ赤に焼けたスパイクアーマーの地金。いつもなら武骨で鋭いその防具が、今の彼女の目には「もっとかわいくなれるはずの原石」に見えていた。
「いくよ、マイメロ・スラスト一閃!」
キンッ! カカカッ!
軽やかな金属音が響くたびに、ドレスの裾がふわふわと踊り、ピンクのハートが飛び散る(ような気がする)。
三八年間、佐藤さんが会社で「正解」と「数字」だけを求めて叩いてきたキーボードとは対極にある、ただ「かわいい」を追求するためのハンマー。
「よし、できたぁ!」
完成したのは、トゲトゲのスパイク部分までがどこか丸みを帯び、淡いピンクの光沢を放つ不思議な防具だった。
「これ……売れるのか?」
「もちろん! 性能は最高、見た目はキュート。これなら冒険者さんも、モンスターを倒しながら『かわいい自分』を楽しめるでしょ?」
みるくは、マイメロディのぬいぐるみを抱っこするように完成品を抱え、満足そうに頷いた。
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### **佐藤さんの板橋日記:ピンクの残像**
板橋のアパートに戻り、私は一日の職人活動をブログに書き留めた。
窓の外には、楓ちゃんが言った「すこしだまってて」という言葉のように、穏やかな静寂が広がっている。
私はふと、今日ギルドで見かけたあのピンクの幻影を思い出し、筆を走らせる。
『三八年間、私は鎧を打っていた。だが、本当は花を植えたかった。
三八年間、私はスラスト(突進)していた。だが、本当はステップを踏みたかった。
六十歳を過ぎて、私はようやく知った。
ピンクのリボン一つで、鉄の重みさえも愛おしく変えられるということを』
六万五千円のアパートの壁に、今日買ったマイメロディのポストカードが、優しく微笑んでいる。
八〇〇〇万円の通帳も、今は静かに「だまって」私の幸せを見守ってくれている。
「……よし。明日は、もっとかわいい小説を書こう」
私は、ピンク色のペンを手に取り、真っ白なノートに最初の「かわいい」一文字を刻んだ。