バザーの停滞から逃げるように訪れた、ナドラガンドの空。
「……あはっ、また死んじゃった。おめぇら、見た目通り本当につえーじゃねぇか!」
冷たい雨が叩きつける薄暗い荒野で、私は地面に突っ伏したまま、おどけて笑った。
目の前に並び立つのは、金色の角を冠した巨大な「あかつきの神兵」たち。黒いマントを翻し、身の丈を超える大剣を悠然と構えるその姿は、影の底で出会ったあの「堕天のメイス」に負けず劣らずの威圧感だ。
識字障害がある私にとって、バザーの冷たい数字の羅列を追いかけるのは、呼吸をするのも忘れるほどの苦行。鍛冶で打った★2の防具が売れ残るたびに、心に小さなヒビが入る。だから、こうして剣を交える時間が、今は何よりの救いだった。
「さあ、お魚さん。もう一度、ワクワクさせてもらうよ!」
立ち上がり、湿った土を払う。
空気には雨の匂いと、神兵たちが放つ重厚な金属の香りが混じり合っている。
『ピロリロ!』
口笛を吹けば、あかつきの神兵たちが一斉にこちらを向く。
ザッ、ザッ。鎧が擦れる重い音が、私の鼓動と重なる。
一匹、また一匹。
いつものリズムで呼び寄せるけれど、彼らの一撃は想像以上に重かった。
「……っ、重い!」
振り下ろされた大剣が風を切り、鼓膜が震える。
マルチタスクが苦手な私の脳は、敵の動きとチャットの音に挟まれて、すぐにパニックを起こそうとする。画面の端で光るパーティメンバーの状況。自分のHP。刻一刻と変わる戦況。
(あ、今……!)
気づいた時には、もう遅い。
冷たい剣閃が走り、私の世界は再び灰色に染まった。
何度も、何度も死ぬ。
けれど、不思議と心は折れなかった。
「ドロップ……あんまりよくないね」
ようやく倒した一団から手に入れたのは、わずかな手応え。
「おぼろ水晶」と「サンドフルーツ」。
アイテム自体はとても良いものなのに、彼らはそれを、宝石を惜しむように隠し持っている。
「け・せら・せら。欲張っても、なるようにしかならないもんね」
私は、手に入れたばかりの淡く光る水晶を、指先でなぞってみた。
ひんやりとしたその感触は、バザーで無視される哀しみを、ほんの少しだけ冷やしてくれる。
効率が悪くたって、何度も死んだって、この「あかつきの神兵」と全力でぶつかり合った時間は、私の心に確かな物語を刻んでくれた。
「ふー……お疲れ様。また明日、美味しいお料理を食べて、リベンジしに来るよ」
私はお魚さんの背中をそっと見送り、雨上がりの空を見上げた。
次は、あの美しいサンドフルーツを使って、どんな素敵なお庭を作ろうか。
ワクワクの種は、まだ尽きそうになかった。