『影の深底、妖艶な死神とのワルツ』
「あはっ、おめぇ……本当に強ぇじゃねぇか! でも、なんだかワクワクすっぞ!」
毒々しい紫の霧が立ち込める、影の深底。お魚さんの私は、またしても冷たい地面を舐めていた。目の前に浮かぶのは、赤いローブを妖艶に翻す「堕天のメイス」。
その姿は、まるで地獄の舞踏会に現れた悪役令嬢……ううん、もっと抗いようのない力を持った「妖艶なお姉さま」って感じだ。彼女たちが手にする巨大な鉄塊が風を切るたび、私の肌にはゾクッとするような死の予感が走る。
「魅了されちゃうデスマドモアゼルも凄かったけど、あんたのその一撃、重すぎるよ……っ!」
ADHDの私の脳内は、今や情報の嵐。敵の振りかぶる予備動作、不意に飛んでくる痛恨の一撃。視覚から入る強烈な「赤」の色調に、マルチタスクが追いつかない脳が悲鳴を上げる。チャットの音すら、今は遠くの幻聴みたい。
でも、不思議。苦しいはずなのに、心は弾んでいる。
「ブラックパールに、悲願の血涙……落とすものまで、あんたみたいに哀しくて綺麗だね」
ようやく一撃を叩き込み、手応えを感じる。ひんやりとした真珠の輝きと、どろりと赤い涙の結晶。それらを奪い合うこの刹那のやり取りが、バザーの棚で★2の防具が売れ残るのを眺める時間よりも、ずっと私の「生」を実感させてくれる。
識字障害のせいで、攻略サイトの文字は今日も砂嵐のように流れていく。でも、いいんだ。この強敵の動き、振り下ろされるメイスの風圧、そして死闘の果てに見える勝利の兆し。それらは文字を通さなくても、私の魂に直接書き込まれる物語だから。
「け・せら・せら。何度死んだって、この『たのしい』は誰にも奪えないもんね」
私は再び立ち上がり、不敵に笑う。お姉さまの振り回すメイスが、また私の視界を真っ赤に染めようとしていた。