夕闇が迫るアストルティアの荒野に、重厚な金属音が響き渡る。
ウェンディのみるくは、どうぐ使いとしての誇りを胸に、巨大な魔物の群れと対峙していた。空を切り裂くような極彩色の翼を持つ怪鳥たちが、鋭い鳴き声とともに急降下してくる。風を切る音、そして大気を震わせる魔力のうねりが、肌をピリピリと刺激した。
「よし……いける! いま、すごくいいリズム!」
手応えは十分だった。どうぐ使いのレベルが136から138へと跳ね上がった瞬間、全身を突き抜けるような高揚感が駆け巡る。経験値が濁流のように流れ込み、自分の魂が一段階、また一段階と研ぎ澄まされていく感覚。この「おいしい」感覚があるから、過酷な狩場での戦いもやめられない。
けれど、勝利の予感に酔いしれたその時だった。
「キィィィィィィィッ!」
耳を突き刺すような、おぞましい咆哮。それはただの叫び声ではなかった。心臓を直接掴み取られるような、根源的な「恐怖」の波動だ。
「あ……っ、身体が……」
ガクガクと膝が震え、視界がぐにゃりと歪む。脳の奥に直接「おびえ」の呪縛が叩き込まれ、ウェンディのみるくはその場にへたり込んでしまった。冷たい地面の感触が、情けなく折れ曲がった膝に伝わる。
『おびえガード、つけておけばよかった……』
心の中の言葉(インナーワード)が、後悔とともに渦巻く。普段なら「面倒くさい」と後回しにしがちな耐性装備。けれど、この異界の地では、そのわずかな油断が命取りになる。動けない身体、迫りくる魔物の影。喉の奥がカラカラに乾き、冷や汗が背中を伝っていく。
「みるく、しっかりしろ!」 仲間の声が遠くで聞こえる。ヒューザの放つ剣閃が火花を散らし、エステラの光が闇を払う。その「間」に守られながら、彼女は必死に呼吸を整えた。
恐怖で麻痺した思考の片隅で、ふと昨日の動画の言葉がリフレインする。 『何でも言えるより、何でも言わなくてもいい関係』 今、必死に自分を守ってくれている仲間たちは、へたり込んだ彼女を責める言葉なんて一つも発しない。ただ、黙って背中を預けてくれている。その無言の信頼が、震える足に再び力を宿らせた。
「……ごめん、もう大丈夫。次は、完璧な耐性で来るから!」
ようやく立ち上がった彼女は、再び道具を手に取った。 レベル138。強くなった実感とともに刻まれたのは、「準備の大切さ」という少し苦くて、けれど確かな教訓。
夕陽に照らされた彼女の横顔には、恐怖に打ち勝った者だけが持つ、静かな決意の光が宿っていた。

耐性気にしないでそのままいったら
コスパタイパめちゃ悪いですよね。