突然の追放からしばらくが経ち、私は一人、真のグランゼドーラ領に立っていた。
かつては、誰かに認められたくて、集団の中に居場所を求めて、必死に言葉を紡いでいた。けれど今は、その言葉を飲み込み、ただ静かに剣を振るっている。
ターゲットは「しにがみのきし」。
銀色の鎧が鈍く光り、馬の嘶きが寒空に響く。
「……いくよ、みんな」
私は小さく呟いた。
言葉を交わす相手は、酒場で雇った気心の知れないサポート仲間たちだ。けれど、この沈黙が、今の私には何よりも心地よい。
盾を構えた瞬間、金属が擦れる「ギギッ」という重い音が腕に伝わる。
しにがみのきしが放つ「痛恨の一撃」が空を切り、土埃が舞った。
かつての私なら、ここで「危なかった!」「ごめんね!」とチャットを打つのに必死で、自分の足元すら見ていなかっただろう。
(……静かだ)
聞こえるのは、風の音と、魔法使いが放つメラゾーマが空気を焼く「シュルル」という音、そして自分が刻む呼吸の音だけ。
誰の機嫌を伺う必要もない。誰に「いらない」と言われる怯えもない。
ただ、目の前の敵と、自分の動きだけに集中する。
「はぁっ!」
占い師のタロットが光を放ち、死神のカードが敵を射抜く。
敵が崩れ落ちる瞬間、経験値が頭上に踊った。
その瞬間、私の胸の中に、じんわりとした熱が広がっていくのを感じた。
これは、誰かに与えられた居場所じゃない。
私が、私自身の力で、この大地に刻み込んだ「時間」の証明だ。
(インナーワードが変わっていく……)
「私は、ごみじゃない」
かつて投げつけられた鋭い言葉が、しにがみのきしが落とした宝箱の輝きに溶けて消えていく気がした。
「みるくさん、お疲れ様」
自分自身に、心の中で声をかける。
かつての自分語りの嵐は消え、そこには澄み切った「余白」が生まれていた。
言葉で埋め尽くさなくても、私はここにいていい。
バザーで売れば、また黄金が積み上がるだろう。
けれど、それ以上に、この静寂の中で「自分を取り戻している」という確信が、何よりの富に思えた。
「……次、いこうか」
私は一呼吸置いて、また新しいカードを引いた。
アストルティアの風は、もう冷たくはなかった。