け・せら・せら、マンドラゴラの歌う夜
夕闇がマイタウンを包み込み、幻想的な青い光が庭のあちこちで瞬き始める。
さっきまでの鍛冶場の熱気も、★1の防具を三つ並べてしまった時のあの凍り付くような絶望も、今は少しだけ遠い国の出来事みたいだ。
「……ねぇ、マンドラゴラさん。私、またやっちゃった」
私は、足元でとぼけた顔をしているマンドラゴラに向かって、ぽつりとこぼした。
初手で『冷やしこみ』を二回。脳がバグったような、あの指先の感覚。ADHD特有の「わかっているのに体が勝手に動く」もどかしさが、胸の奥をチリチリと焼く。
でも、マンドラゴラさんは何も言わず、ただ静かにそこに居てくれる。
その無垢な姿を見ていたら、不思議とトゲトゲした気持ちが丸くなっていくのがわかった。
「カブなんて言ってごめんね。君は君だもんね。唯一無二の、可愛い私の庭の住人」
指先でそっと、マンドラゴラの葉っぱを撫でてみる。
ひんやりとした夜の露が指に触れ、湿った土の生命力溢れる匂いが鼻腔をくすぐった。
2時間しか眠れなかった頭の芯に、その冷たさが心地よく染み渡る。
「しっかり眠れなくても、大ポカしても。私はこうして、この美しい庭に立っている」
視界には、ゆったりと回る水車のコトコトという音。
淡いピンクの蓮の花が水面に揺れ、巨大なタンポポの綿毛が空へと溶けていく。
ここは、私の失敗も、私の凸凹な性質も、全部まるごと包み込んでくれる場所。
「……よし。もう一度、妖精さんにな~れ!」
私はマンドラゴラさんの前で、今度は軽やかにステップを踏んだ。
背中の蝶の羽が月光を反射して、キラキラと魔法の粉を振りまく。
睡眠障害だって、不注意だって、全部ひっくるめて「私」という物語の一部なんだ。
「け・せら・せら。明日はきっと、いい温度で叩ける気がするわ」
マンドラゴラさんの(たぶん)微笑んでいる顔を最後に一度見て、私は大きく深呼吸をした。
夜の風は、もうちっとも冷たくなかった。