2月の風は、まだ鋭いナイフのように頬を撫でていく。けれど、ふと見上げれば空の青みが少しだけ柔らかさを帯びて、季節が静かに寝返りを打ったことを教えてくれる。
アストルティアの夜。私は手に入れたばかりの「デビルパンク」のセットに身を包み、しっとりとした闇のなかに立っていた。
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## 移ろう季節の気配
足元の草むらからは、湿った土の香りが立ち上っている。それは**下萌**(したもえ)の兆し。雪の下でじっと耐えていた命が、地表へと鼻先を突き出す準備を始めている匂いだ。
「少し、大人っぽすぎるかしら」
自嘲気味に呟いた声が、冷たい夜気に溶けていく。今回選んだシックな色合いのドレスは、オレンジと黒のコントラストが絶妙で、どこか**山焼**の後の、焦げた大地に夕陽が差し込んだような寂寥感と力強さを併せ持っている。指先でスカートのフリルに触れると、少し硬めの生地の質感が指先に伝わり、新しい冒険への緊張感を引き締めてくれた。
ふと視線を落とすと、小さな**ものの芽**が月明かりに照らされている。それは春を待つ健気な意思の象徴。私の心も、この新しい装いのおかげで、冷え切った冬の眠りから覚め、**春を待つ**高揚感に包まれていく。
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## 五感に響く夜の静寂
周囲は静まり返り、遠くで水の流れる音が微かに聞こえる。あれはきっと**春の水**だ。凍てついていた川が解け、岩を噛む音が軽やかになった証拠。その音に耳を澄ませていると、不思議と口の中に**蕗の薹**の、あの独特な苦味が蘇ってくるような気がした。春は、甘いだけではない。ほろ苦く、そして鮮烈だ。
手にした鎌を軽く振りかざすと、風を切る「シュッ」という鋭い音が夜の森に響く。
「うん、悪くない」
この格好なら、**梅見**の宴にも、あるいは少し背伸びをした夜の社交場にも馴染むだろう。**迎春花**が咲き誇る頃には、このシックな装いで誰を驚かせようか。
ふと、故郷の味である**棒鱈**の煮える匂いや、田んぼ一面を紫に染める**げんげ**の花を思い出す。季節は巡る。**納税期**の慌ただしさや、折れた針に感謝を捧げる**針供養**の静かな時間。そんな日常の営みの積み重ねの先に、今の私がいる。
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## 決意を秘めたシルエット
背後の東屋(あずまや)が、深い青の闇に溶け込んでいる。
私は大きく息を吸い込んだ。肺の奥まで冷たい空気が入り込み、頭が冴え渡る。**飛梅**の伝説のように、この服を纏った私も、どこか遠くの知らない場所まで飛んでいけそうな、そんな根拠のない自信が湧いてくる。
「さて、行こうかな」
**さより**のように透き通った月の光を背に受けて、私は歩き出す。一歩踏み出すごとに、デビルパンクのチェーンが小さな音を立てて触れ合う。それは、私だけの新しい季節の始まりを告げる足音だった。