呪文の錬金術:みるくのハッピー・レボリューション
「……ふぅ。よし、完了!」
みるくは、使い古された「天馬の大剣」をバサリと下ろした。30分で4本。計算通り、一本から36個の「汗と涙の結晶」が抽出されていく。かつては「ぼったくりだろ」と吐き捨てていた96,000ゴールドの★3装備が、今は愛おしい宝の山に見える。
「みるく、調子はどう?」
真由が、爽やかなミントの香りを纏わせて歩み寄る。みるくは満面の笑みで、拳を握りしめた。
「最高だよ! 聴いてて真由。……うれしい、たのしい、しあわせ、ついてる!」
呪文のように、みるくはその言葉を口ずさむ。
一言放つたびに、冷え切っていた訓練場の空気が、ふわっと春の陽だまりのように温かくなるのを感じた。言葉が空気を振動させ、みるくの耳に届き、細胞の一つひとつに浸透していく。
「あはは、すごい勢い。でも、本当に顔つきが変わったね」
「そうなんだよ! さっきまで『逃げるなよ』とか『アイテム拾えないじゃん』とか、ぶつぶつ文句言ってた自分が嘘みたい。口角を下げて不機嫌でいるのって、実はものすごく疲れるんだもん。それより、この四つの言葉を唱えてる方が、ずーっとコスパもタイパもいいよね♡」
みるくは、パンパンに膨らんだポーチをポンと叩いた。以前なら「重くて邪魔」としか思えなかった収穫の重みが、今は自分の努力と幸運の証として、心地よい重圧(プレッシャー)を背中に伝えてくる。
「脳って不思議だよね。言葉にするだけで、見えてる景色が塗り替えられちゃう。拾えなかった素材も、今は『誰かのための落とし物』だと思えるし、低かった攻撃力も『長く戦わせてくれる優しさ』に聞こえるんだ」
みるくの瞳には、湿った地面に咲く名もなき花の色彩が、鮮やかに、鋭く映り込んでいた。五感が、喜びの色を拾い集めようと躍動している。
「……うれしい、たのしい、しあわせ、ついてる。……うん、完璧!」
彼女がもう一度唱えると、天馬の大剣が夕陽を跳ね返し、黄金色の閃光を放った。未来は、今、自分が放った言葉で作られる。みるくは、その魔法の杖をしっかりと握り直し、次の一歩を踏み出した。
「さあ、次の30分も、ハッピーのオンパレードで行くよ!」
真由の笑い声と、みるくの明るい呪文が、藍色に染まり始めた空へと溶け込んでいった。