冒険者日記 ― 2月24日 ―
「……なんで増えないんだろ」
グレン城下町のバザー前。
夕方の空気は少し冷えていて、鉄の匂いと人いきれが混ざっている。
売れた通知は、ずっと鳴りっぱなしだった。
「スパイクバイザー、売れた!」
「スパイクアーマー上、売れた!」
「スパイクグローブ、売れた!」
カラン、と軽い効果音。
手のひらの汗が少し冷える。
「またララさんだ……すごいな」
ログを見ながら、思わず笑う。
今日は本当によく売れた。81個。
受け取りは、6,156,000G。
「600万だよ? すごくない?」
自分で言ってみる。
でも、胸の奥は思ったより静かだ。
素材を買った日のことを思い出す。
ドラゴンのツノをまとめて買ったとき、
ゴールドが一気に減っていく音がした気がした。
チャリン、じゃない。
ズズッ、と砂が崩れるみたいな感覚。
「増えてる、よね?」
所持金を開く。
数字は確かに上がっている。
でも、期待していた“跳ねる感じ”がない。
職人ギルドの炉の前。
赤い炎が揺れている。熱気が頬を刺す。
「今日も叩くの?」
隣の職人が聞く。
「うん……叩くよ」
カン、カン、カン。
光の鍛冶ハンマーが、金属を打つ。
成功の音は、やっぱり気持ちいい。
★★★が光った瞬間、胸が弾む。
「よしっ!」
でもそのあと、ふと静かになる。
「ねえ」
隣の職人に小声で言う。
「がんばってるのに、増えない気がするのって、なんでだろ」
彼は笑った。
「それ、増えてないんじゃなくて、期待がインフレしてるだけじゃない?」
「……インフレ?」
「600万で足りない顔してるよ」
思わず吹き出した。
確かに、最初は10万でも震えてた。
今は600万でも物足りない顔をしている。
バザーの喧騒が遠くに響く。
誰かの「安いよー!」という叫び声。
風に乗ってくるパンの甘い匂い。
ゴールドは、ちゃんと増えている。
ただ、自分の欲が、もっと早く走っているだけ。
「……もう一本、叩くか」
炎の前に立つ。
頬がじんわり熱い。
カン、と鳴る音が、今度は少し軽く聞こえた。
増えてないわけじゃない。
焦ってるだけだ。
そう思えた夜だった。
所持金+銀行
: 93,242,412 G