夜の風が、草の匂いを含んで頬をなでた。星は冷たく瞬き、遠くの家々の窓明かりがぼんやり揺れている。私はごつごつした原始獣のブーツで地面を踏みしめ、「……今日は鍛冶は休み」と小さくつぶやいた。
「儲からないんだもん、汗と涙の結晶装備ってさ」
自分で作っているスパイクセットは安値で出しているはずなのに、バザーにはひとつもない。胸の奥がきゅっと縮む。火床の熱、鉄の匂い、ハンマーの衝撃がまだ腕に残っている気がする。
珍しく★3を買った。
「今日は買い手。職人じゃなくて、戦う側」
原始獣のシャプカをかぶると、内側の毛皮がふわりと額を包む。クリムゾンメイルの硬さが肩にずしりと乗り、古武道着下は意外と軽い。グローブをはめ、ぎゅっと拳を握ると革がきしむ音。
「バラバラでも、悪くないでしょ?」
天馬の大剣を五本、背に担ぐ。金属が触れ合って澄んだ音を立てた。
「一本九万六千……五本で四十八万」
指折り数える。
「装備が、えっと……」
ブーツ106,899。
グローブ111,984。
古武道着下114,000。
メイル上120,000。
シャプカ102,400。
夜気の中、そっと足し算する。
「合計……1,035,283ゴールド」
思わず笑いがこぼれた。
「高っ……!」
風が草を揺らし、さらさらと耳に優しい音を運ぶ。遠くで魔物の気配。胸の奥に、久しぶりの高揚が灯る。
「よし、元は取る。絶対」
冷たい星空の下、私は剣を一本抜いた。刃が月明かりを反射し、青白く光る。
鍛冶の火とは違う、戦いの熱が、今ゆっくりと身体の奥で燃え始めていた。