なつき度が止まった日
朝の空は薄い雲に覆われていたが、ときどき差し込む日差しが岩肌を白く照らしていた。紬は青い刺繍の入った冒険服の袖を整え、宿で焼いてきたベーコンエッグをパンにはさんで急いで食べると、飲みかけのぬるい紅茶を一口だけ口に含み、いつものように仲間モンスターたちが待つ牧場へ向かった。牛はゆっくり草を噛み、赤いスライムは楽しそうに跳ね、子豚は地面を鼻でつついているのに、一番長く連れ歩いてきた丸い仲間モンスターだけは、いつもと変わらない顔で紬を見上げていた。紬は手帳の端に書き込んだ数字を指でなぞりながら首をかしげる。
「転生十五回なのに、なつき度が八のままって、どういうことなんだろう」
紬は仲間モンスターの頭を軽くなでながら、昨日も一昨日も一緒に戦った景色を思い返していた。山道を走り、迷宮へ入り、強敵から逃げ回り、全滅しそうになっても何とか戻ってきた時間は確かに積み重なっているはずだったのに、画面を開くたび数字だけが動かない。竹林を抜ける風が草を揺らし、どこかで小鳥が鳴き続ける中、紬は肩から下げた袋の中で少し潰れてしまったおにぎりを取り出し、一口食べてから笑ってしまう。具の鮭が片側だけに寄っていて、妙に塩辛かった。
「私、何か勘違いしてるのかな」
そのまま酒場へ戻ると、昼食の焼き魚の匂いが漂い、冒険者たちは依頼の話よりも今日の相場の話で盛り上がっていた。紬はカウンターに肘をつかず、いつもの癖で指先だけを組みながら、近くにいたベテラン冒険者へ画面を見せる。相手は少し笑ってから、仲間モンスターの情報を順番に確認し、転生回数となつき度を見比べて大きくうなずいた。紬は返事を聞く前に冷めかけたスープを一口飲み、思わず目を丸くする。
「それ、転生回数とは別なんだよ。なつき度は一緒に戦ったり、牧場で世話をしたりして少しずつ増えるんだ。転生を何回しても、自動では上がらないよ」
紬は少し照れくさそうに笑い、肩に止まった小さな葉っぱを払ってからもう一度画面を見つめた。数字が止まっていた理由が分かると、胸につかえていたものがすっと軽くなり、洗濯したばかりのマントが風に揺れる音まで気持ちよく聞こえてくる。帰ったら夕飯は野菜たっぷりの味噌汁を作ろうと思い、朝から机の上に出しっぱなしだった湯のみを片付けることまで頭に浮かんだ。仲間モンスターは何も知らない顔で紬の後ろをちょこちょこと歩き、その姿を見た紬は自然と歩幅を合わせる。
「急がなくていいか。一緒に少しずつ、なつき度も育てていこう」
スマホもってないから、便利ツールも使えない