みるくの偉業と、星空の祝杯
みるくの指先は、コントローラーを置いたあともしばらく小さな微振動を繰り返していた。長かった旅の区切りを示すように、画面に並んだ全職業のレベル「140」の数字が誇らしげにきらめいており、彼女は思わず深く息を吐き出して背もたれに体を預けた。いつものカラフルなドレスから気分を変えて、今夜はシックな黒とゴールドのラインが入ったゴシック調のタイトなミニドレスを身に纏い、ちょっぴり大人びた気分に浸っている。机の端には、朝から出しっぱなしにしていた領収書の束と、インクのシミで薄汚れた手書きの帳面が静かに転がっていたけれど、今夜ばかりはそんな現実の雑務から目をそらすことにした。
「本当に、ここまでよく頑張ったなぁ」
ふわりと開けた窓からは、真夏の生ぬるい夜風が部屋に流れ込み、どこか懐かしいお日様の匂いが残る洗濯物の山を揺らした。庭のあちこちに飾られたネオンのゲートや、光るスライムのオブジェが、暗闇の中で七色の明かりをにぎやかに放っている。戦士から始まって、天地雷鳴士、そして最新のストームカイザーに至るまで、魔物たちと剣を交え続けた過酷な日々の記憶が、庭の光のまたたきと重なって頭の中を駆け巡った。少し冷めて表面に薄い膜が張りかけたお味噌汁を片付けるのも忘れて、みるくは静まり返った夜のマイ・タウンを見つめた。
「みんなが驚く顔を、早く見てみたいわね」
お腹が小さく音を立てたので、みるくは台所へ向かい、買っておいた一口サイズのイチゴのタルトをお皿に乗せて戻ってきた。サクサクとしたタルト生地を一口かじると、甘酸っぱいイチゴの果汁と濃厚なカスタードクリームの風味が口いっぱいに広がり、思わず頬に手を当てて笑みをこぼした。かつてレベル上げの途中で力尽きそうになったとき、フレンドから送られてきた調理職人製のお菓子の味を思い出し、あの頃よりもずいぶんと強くなった自分を誇らしく思う。
「これでおしまいじゃなくて、明日からはまた新しい冒険が始まるんだもんね」
みるくは人差し指で甘いクリームのついた唇をぬぐい、いつもの癖で親指の爪を少しだけ噛みながら、明日の予定を思い描いた。庭の片隅では、牛や羊たちが夜露に濡れた草をのんびりと食む音が、心地よいリズムとなって響いている。
「さあ、ウエンディーみるくの伝説は、まだまだこれからなんだから!」