釣りレベル Lv 55
釣り経験値 8,576,114 P
次のレベルまで -- P
おさかなコイン 1,992,565 枚
青き雫と師匠の夜
みるくは湯気のあがる圧力鍋の蓋を慎重に回し、じっくりと煮込まれた鶏肉の甘酸っぱい香りを台所に漂わせた。夕食の支度を整えながらも、彼女の右手は無意識のうちに、長年愛用している古い帳面の角を何度も指先でなぞっている。今日という日は、魔界の過酷な水辺を巡り、あの不具合じみた数値の怪奇を乗り越えて、ついに「レベル五十五」という頂点へ上り詰めた記念すべき日だった。いつもならすぐにでも机の上の片付けを始めてしまうところだが、今夜ばかりは胸の奥から湧き上がる達成感が全身を包み込み、ただじっと自分の手元を見つめていた。温かい手作りのうどんをすすり、少し濃いめの緑茶を飲み干すと、彼女は弾む心でパソコンの画面へと向かった。
アストルティアにログインして師匠の前に立つと、画面の向こうにはいつもと変わらない堂々とした姿があった。台所の隅では、昨夜の激しいゲリラ豪雨で濡れたまま干されている洗濯物が、微かに湿った土の匂いを残しながら部屋の空気に混ざり合っている。みるくは仕立ての良い白いドレスと鎖帷子をまとった自分のキャラクターを動かし、白髪をきっちりと蓄え、青い上着に緑のマフラーを粋に巻いた師匠の隣へ並んで、静かに記念写真を撮影した。あの頃のみるくはトゲトゲルアーの扱いにも慣れず、銀色の大きな魚影に何度も逃げられては、画面の前で悔しそうに唇を噛み締めていたものだった。
「本当に、よくここまで歩んできたものだね」
お祝いの飾り付けが夜空にたなびく中、隣に立つ師匠がそっと語りかけてくるような気がした。
みるくは静かに画面を見つめ、幾多の大物を釣り上げてきた師匠の風格に、深く心の中で頭を下げた。無駄な寄り道のように思えたイセエビ釣りの日々も、すべてはこの瞬間のために必要な、幸せを感じる心を育てるための大切な時間だったのだ。彼女の心には、あの「次のレベルまで四万点」という奇妙なバグ表記が表示された瞬間の戸惑いと、それを笑い飛ばして「――」という本物のカンストへ導いた軌跡が、鮮やかな灯火のように灯っていた。おさかなコインも二百万枚に届こうかという今、自分の進んできた道が決して間違いではなかったのだと、確かな手応えが指先から伝わってくる。
「師匠の教えがあったからこそ、私はあのマオナガの引きにも負けずに戦えました」
みるくは微笑みながら、胸に飾られた小さなブローチをそっと愛おしそうに指で触れた。
夜の帳がすっかり降りた部屋の片隅で、最高峰の釣り師となったみるくは、遠くで小さく踊るプクリポの影を画面越しに見つめた。この記念の一枚は、決して師匠からの卒業ではなく、ここからまた新しい冒険が始まるという、明日への確かな約束のようでもある。じっくりと時間をかけて煮込んだ夕食の余韻に包まれながら、彼女は自分の軸をブレずに持って歩んできた道のりの愛おしさを噛み締めていた。最高峰の釣り師となった愛弟子を前に、師匠は自らのことのように誇らしく、深く静かな祝いの言葉を夜空の星々に乗せて届けてくれている。
「さあ、今夜は美味しいものをたくさん食べて、明日からはまた、お前の新しい物語を紡いでいくといい」
師匠の優しい声が、紫陽花の青い雫のように、みるくの心へ静かに染み渡っていった。