人魚の涙より、友だちとの時間
夕方になっても肩の力が抜けず、みるくは白いワンピースの袖口を何度も指先で整えながら、自宅の庭に立っていた。南国風の木々の葉が風に揺れ、ひまわりの黄色い花が夏の日差しを受けてまぶしく咲いている。それでも今日の出来事を思い返すたびに、つい口元がへの字になってしまう。朝食に食べたバターを塗ったトーストの香りはもう残っておらず、テーブルの上には飲みかけのアイスコーヒーがぬるくなったまま置かれていた。金策の日だからと少し早起きをして、洗濯物まで済ませてからログインしたのに、期待していた流星石は一つも拾えなかった。
「まさか、ゼロ個なんてねえ……。」
そうつぶやきながら気持ちを切り替え、みるくはレアドロップ装備のサポート仲間を確認して盗み金策へ向かった。しかも今日は久しぶりに友だちとのペア狩りで、戦闘の合間には「最近暑いね」「夏バテしてない?」と他愛もない話まで弾み、いつも一人で黙々と戦う時とは違う時間が流れていた。敵を何度倒しても宝箱の中身は思うように増えず、最後に数えてみると人魚の涙は六個だけだった。みるくはリュックの中で揺れる戦利品を見つめながら、スーパーの見切り品コーナーで夕方になると値引きシールを探して歩く自分の姿を思い出し、小さく肩をすくめた。
「これじゃあ、今日のおかずも豪華にはならないね。」
友だちは笑いながらそう言うと、「でも久しぶりに一緒に遊べたから私は楽しかったよ」と続けた。その言葉を聞いて、みるくは画面の向こうで思わず笑ってしまう。帰宅すると鍋に残っていた味噌汁を温め直し、冷蔵庫から卵を一つ取り出して落とし入れた。湯気が立ち上る台所には味噌の香りが広がり、窓際では朝干した洗濯物がすっかり乾いている。人魚の涙は少なかったし、流星石も拾えなかった。それでも、久しぶりに友だちと笑いながら冒険した時間だけは、バザーでは決して値段の付かない、一番のレアドロップだったのかもしれないと思いながら、みるくは湯気の立つ味噌汁を両手で包み込み、明日はきっと流星石が拾えると信じて、静かにスプーンを口へ運んだ。