五回目の全滅と、空っぽの財布
不思議の魔塔二十五階で、みるくは五回目の床をなめた。画面の前では白い半袖シャツに花柄のステテコをはき、首には水色のタオルを巻いていたが、画面の中では白髪の剣士が立派な長衣をまとい、巨大な敵に剣を向けている。机の端には冷めた大根の味噌汁と、片面だけ食べたアジの開きが残り、扇風機の風でスーパーのレシートがぱたぱた揺れていた。二十五階のボスは、こちらが夕飯を食べていないことなど少しも考慮せず、太い腕を振り回してきた。
「今度こそ勝つ。五度目の正直という言葉もある!」
戦闘が始まると、みるくはすぐにリベホイミをかけ、減った体力を見ながらアモールの水を使った。しかし回復した数字より大きなダメージが飛んできて、体力の表示は階段を転げ落ちるように減っていく。助っ人のエリミネーターは金色の板を両手に持ち、登場した瞬間だけは頼もしかった。ところが、みるくが「よし、一緒に戦おう」と思った頃には、彼は仕事を終えた訪問販売員のように消えていた。
「待って! まだ何も解決してないでしょう!」
六回目に備えて道具を確認すると、財布には回復薬を買えるだけの金が残っていなかった。進化や錬金で装備を整え、失敗するたびにアモールの水を使った結果、魔塔の中のみるくは総帥Zとは思えない無一文になっていた。現実の台所には梅干しが三個、冷蔵庫には麦茶が半分残っているのに、画面の中では水一杯も買えない。背後の洗濯機が終了を知らせたので、みるくは立ち上がりかけたが、洗濯物を干しても魔塔の所持金は増えないと気づき、そのまま椅子へ座り直した。
「回復薬を買う金もない。勇者ではなく、遭難者じゃないか」
みるくは戦闘を始めず、帳面の汚れたページに「リベホイミ」「アモールの水」「エリミネーターはすぐ帰る」と大きく書いた。その横には、昨日の買い物で卵を買い忘れたことや、直してもらったトイレの鍵を強く回しすぎないことまで書いてある。説明を一度に覚えるのは難しくても、五回負けたぶんだけ、いつ回復が間に合わなくなるかは分かってきた。金がなければ、下の階へ戻って集め直し、装備と技を見直してから再び上がればよい。
六回目の出撃を延期したみるくは、味噌汁を温め直し、残ったアジの身を箸で丁寧にほぐした。エリミネーターのようにすぐ消えない家族が、廊下の向こうで直したばかりのトイレの扉を確かめている。みるくは温かくなった大根を食べ、帳面の「六回目」の横に丸を一つ描いた。
「今日は撤退だ。だが覚えておけ、二十五階のボス。次は回復薬を買えるくらい金持ちになってから来る!」