先取り不安おばけ、七十階から来る
敵の一体を床へ沈めたみるくは、薄桃色のフリルを揺らして小さな拳を上げたが、すぐにコントローラーを持つ手を止めた。現実のみるくは水色のTシャツと灰色のステテコを着ており、机の上には食べ終えた大根とわかめのおじやの茶碗が置かれ、底に一粒だけ残ったご飯が乾き始めている。まだ三十階のボスにも勝っていないのに、頭の中では七十階のボスが腕組みをして待っていた。レベルが永遠に上がるなら、人より余分に戦って九十まで上げればよいが、魔塔では七十になると、それ以上は上がらないらしい。
「七十階のボスをレベル七十で倒せと言うんでしゅか。数字が同じだから仲良くしろという意味でしゅか?」
その瞬間、部屋の隅からヒューという笛の音が聞こえた気がした。続いて、どろどろどろと太鼓が鳴り、白い着物をまとった先取り不安おばけが、まだ行ったこともない七十階から天井を抜けて降りてきた。おばけは額に三角の布をつけ、右手に「レベル上限七十」、左手に「強敵」という札を持っている。みるくが攻略帳面を閉じようとすると、おばけはその上へ正座し、皿に残った大根を勝手に眺めた。
「おまえは七十階で負けるぞう。何度やってもレベルは上がらないぞう」
「その前に三十階で止まっているので、順番を守ってくだしゃい」
先取り不安おばけは順番という言葉を聞いても帰らなかった。三十五階、四十階、五十階、六十階の不安まで風呂敷から取り出し、散らかった机へ一枚ずつ並べ始めた。みるくの肩は固まり、胃の奥もきゅっと縮んだが、台所では洗い忘れた小鍋にわかめが一枚張りついている。七十階の心配をしている場合ではなく、今夜中に洗わなければ、明日の朝には乾燥わかめへ戻ってしまいそうだった。
「おばけさん、小鍋を洗ってくれるなら、もう少し居てもいいでしゅよ」
「家事は管轄外でございます」
みるくはおばけを放置して台所へ行き、小鍋に水を張った。冷蔵庫から麦茶を出すと、扉の卵入れには卵が一個だけあり、その横で使いかけの大根がラップから少しはみ出していた。人より余分に努力すれば何とかなると思ってきたが、レベル上限があるなら、七十階では装備、耐性、技の選び方、敵の動き方を覚える必要がある。それは七十階へ着いたみるくが考えることであり、三十階のみるくが今夜まとめて解決する宿題ではなかった。
「未来のみるくさんへ。七十階は任せました。現在のみるくは三十階を担当しましゅ」
部屋へ戻ると、先取り不安おばけは勝手に麦茶を飲み、攻略帳面で団扇を作っていた。真夏の夜の怪談として楽しむには図々しいおばけだったが、追い払おうとすると余計にヒューどろどろと騒ぐので、みるくは隣に座布団を置いてやった。おばけが何をささやいても、今やることは心頭滅却を探し、キングスライムを呼び、三十階の敵を一体ずつ減らすだけである。みるくはコントローラーを握り直し、画面の幼女に大きな剣を構えさせた。
「怪談はおつでしゅが、床ペロはもう結構でしゅ。七十階のおばけさんも、三十階を突破するまで廊下で待っていてくだしゃい!」
床ペロは嫌いなのでしゅ♡