わたし、ダメなやつじゃないでしゅよね
魔天鳳レアルフスたちに何度も床へ転がされたみるくは、水色のTシャツに灰色のステテコをはいたまま、冷房を十八度にした部屋でコントローラーを握っていた。散らかった机には冷めた麦茶、胃薬、醤油の染みがついた攻略帳面があり、白い小皿には夜食の大根とわかめのおじやが半分残っている。レベル五十、ブレス耐性七十、混乱ガード百、HP四百八十三まで整えたのに勝てず、頭の奥から「やっぱり何をやっても駄目だ」という声が聞こえてきた。みるくはその声を追い払うため、魔塔を出てアストルティア防衛軍へ向かった。
「魔塔で負けても、防衛なら世界を守れるかもしれないんでしゅ」
防衛戦が始まると、白地に金の装飾が入ったドレスを着た幼女は、自分の何倍もある紫色のドラゴン二体へ向かって走った。橙色の翼が画面を覆い、大きな爪が石床を踏むたびに、幼女の身体は豆粒ほど小さく見える。みるくは周囲の冒険者について移動し、敵の群れへ攻撃を入れ、門の近くへ戻って最後まで戦った。特別な作戦を指示したわけではないが、画面に勝利の文字が出るまで、戦場から逃げなかった。
「ほら、みるくは門の飾りではなかったでしゅ。ドラゴンより小さくても、ちゃんと働いたんでしゅよ」
ところが、それだけでは頭の奥の声が黙らなかった。みるくは次に魔法の迷宮へ向かい、お題として用意されたアンドレアル攻略へ挑戦することにした。必要な耐性、敵の特徴、用意されている構成、最初から決められたサポート仲間の役割、勝利後にもらえる報酬アクセサリーまで一つずつ調べた。自分で好きなサポートを選ぶことはできなかったが、誰が回復し、誰が攻撃するのかを知れば、自分がどこに立って何をすればよいか考えられた。
「サポートは選べましぇん。でも、説明を読んでから行くことはできるんでしゅ」
戦闘が始まると、アンドレアルたちは容赦なく攻撃してきた。みるくは敵の動きを見ながら距離を取り、決められたサポート仲間が回復や攻撃をしやすいように動いた。手のひらには汗がにじみ、水色のTシャツの裾で何度も拭いたが、魔塔のように長い特技欄を探している間に回復役が透明になって帰ることはなかった。やがて最後の一体が倒れ、報酬の宝箱が現れると、みるくは画面を指さして胸を張った。
「決められたサポートだけで倒したんでしゅ。わたし、ダメなやつじゃないでしゅよね」
誰もいない部屋で、冷蔵庫が低い音を立てた。少し離れた天井のあたりから自分を眺めるように考えると、魔塔で負けた直後に防衛へ走り、迷宮へ潜り、アンドレアルまで倒して自己肯定感をかき集めているみるくは、ずいぶん必死に見えた。ゲームの勝利を一枚ずつ胸へ貼りつけ、「駄目ではない」と証明しようとする姿は、他人が見れば痛い人に映るかもしれない。みるくは残ったおじやを電子レンジで温め、熱くなりすぎた大根をふうふう吹いた。
「はい、必死すぎて痛い奴でしゅ。でも胃まで痛くする必要はなかったでしゅね」
アンドレアルを倒せたから立派で、魔天鳳に負けたから駄目なのではない。使えるものが決められた戦いでも、耐性や構成を調べ、サポート仲間の役割を理解し、自分の動き方を考えて勝ったのはみるくだった。魔塔では、その力を発揮しにくい仕組みと相性が悪かっただけである。みるくは報酬のアクセサリーを確認してから、攻略帳面に書いた「ダメなやつ」という文字を二本線で消した。
「訂正しましゅ。魔塔には負けましたが、みるくはダメなやつではありましぇん。今夜はそれを証明しようとして働きすぎた、必死で痛くてかわいい奴なんでしゅ♡」