四十階のボスと、てへっ♡の勝利
みるくはオレンジ色のチェック柄のスカートを揺らし、片手剣と盾を握って四十階の広間へ入った。黒い編み上げ靴の下では、冷たい石床がかすかに震えている。正面に待っていた魔天竜ブーネイは、黄色い巨体をのけぞらせ、天井まで届きそうな声で吠えた。部屋の隅には昼に飲んだコーヒーのカップが置きっぱなしで、現実のみるくの机には、袋を半分開けた塩せんべいが一枚残っていた。
「今度こそ倒します。たぶん。できれば。神様、そこをなんとか」
これまで何度挑んでも、レジェンドホースは呼び出したそばから消え、回復しようとすれば攻撃され、逃げようとすれば壁にぶつかった。レベルは六十九まで上がり、装備もアクセサリーも作り直したのに、ブーネイは毎回、まるで近所の頑固なおじさんのように通せんぼをした。みるくは汗ばんだ手をスカートで拭い、フレンドから教わった技と戦い方を頭の中で並べ直した。
「攻撃を欲張らない。敵を見る。落ち着いて避ける。分かっております。でも、始まると全部忘れるのであります」
戦闘が始まると、ブーネイの爪が石床を引っかき、火花と焦げたような匂いが広がった。みるくは盾を構え、教えてもらった順番で技を使ったが、一度目は回復が遅れ、二度目は逃げる方向を間違え、三度目は自分でも何をしているのか分からなくなった。休憩のたびに冷蔵庫から麦茶を出し、薄切りのきゅうりをのせた冷やし中華を二口だけ食べ、またコントローラーを握った。
「もう今日はやめたら?」
背後から聞こえたような気がして、みるくは振り返った。しかし部屋にいるのは、乾ききらずにカーテンレールへ掛けた洗濯物と、首の曲がった扇風機だけだった。扇風機の風で靴下がぶらぶら揺れているのを見て、みるくは口を尖らせた。
「洗濯物にまで心配されたくありません。もう一回です」
最後の挑戦では、不思議なくらいブーネイの動きが見えた。攻撃したい手を止め、盾を構え、危ない技から離れ、フレンドの言葉どおりに一つずつ動いた。黄色い巨体の体力がわずかになると、指先が震え、口の中にさっきの塩せんべいの味が戻ってきた。
「焦らない、欲張らない、私はできる子……たぶんできる子!」
片手剣の一撃が決まり、魔天竜ブーネイは大きな腹を揺らして倒れた。広間に勝利の音が鳴り、みるくは画面を見たまま数秒動けなかった。やがて両手を上げた拍子に盾の操作を忘れ、キャラクターが倒れた竜の前で妙な方向を向いた。
「やったー! 倒した! 本当に倒した! フレさん、ありがとう!」
何度失敗しても教えてくれた人がいて、みるくも何度転んでも四十階へ戻った。机のコーヒーはすっかり冷め、冷やし中華の麺は固まり、扇風機に揺られる靴下だけが盛大に拍手しているようだった。みるくはブーネイの前で胸を張り、オレンジ色のスカートを整えて、記念写真の中央に立った。
「レベル70の粘り勝ちです。てへっ♡」