立秋まで、あと二日
八月五日の午後、みるくは白いフリルのワンピースに水色の靴を合わせ、麦わら帽子をかぶって庭へ出た。大きな木の向こうには夕焼け色の空が広がり、背の高いひまわりが丸い顔を並べている。東京の部屋では、エアコンの風に揺れる洗濯物を横目で見ながら、冷やした麦茶と塩むすびを食べてきたところだった。
「立秋まで、あと二日。今日は思い切り夏を楽しむんだ」
帽子のつばを指で直すと、現実の窓から聞こえる蝉しぐれと、アストルティアの木々が揺れる音が重なった。
みるくは庭の中央に置いた青いビニールプールへ近づき、指先で水をかき回した。昼間の熱を残した水はぬるく、手を上げると雫が白い袖へ落ちた。庭を走り抜けた風には、土と葉とひまわりの青臭い匂いが混じっている。
「クマゼミ、アブラゼミ、ミンミンゼミ。それからヒグラシ、ツクツクボウシ、ニイニイゼミ」
六種類の名前を順番に数えると、夏休みの宿題を覚えた子どものようで、みるくは口元を緩めた。
「日本には三十種類以上もいるんだって。アストルティアのセミは、何種類いるのかな」
木のそばで青い光が瞬き、返事の代わりに小さな羽音を立てた。
やがて、みるくはむくろカサゴとの戦いへ向かった。相手が放つ雷のような闇のいなずまと、水流に見える風のバギクロスが重なり、仲間の体力が一気に赤くなった。冷たい麦茶のグラスには水滴が伝い、机の隅では食べ終えたアイスの木の棒が皿に残っていた。
「うわっ、また来た。みんな、倒れないで!」
みるくは敵から距離を取り、回復する旅芸人の動きを見ながら、増やしすぎた敵を一匹ずつ減らした。
「雷に見えても闇、水に見えても風。見た目だけで決めちゃいけないのね」
最後の一匹が倒れると宝箱が現れ、仲間たちは何事もなかったように武器を収めた。
夕方、みるくは再びひまわりの庭へ戻った。空は桃色から紫色へ変わり、昼間より細くなった蝉の声が、網戸の向こうから途切れず届いている。夕食には冷やし中華を作り、薄焼き卵、キュウリ、ハム、紅しょうがを載せるつもりだった。
「秋が来るからって、夏が急になくなるわけじゃないよね」
みるくは麦わら帽子を持ち上げ、汗ばんだ額へ夕方の風を当てた。
「今日もゲームができた。蝉の声も聞けた。ひまわりも見られた。それだけで、いい日だよ」
幸せを感じる心は、どこかで拾う特別な宝物ではなく、今日あった小さな出来事を一つずつ数えるうちに育つものなのかもしれない。みるくは青いプールへ足先を入れ、立秋までの二日間に何をしようかと考えた。
「明日はジュレットで泳ごう。それから、冷たいスイカも食べよう」
蝉しぐれとアストルティアの熱い吐息に包まれながら、みるくは夏の予定を指折り数えた。
撮影場所「霊の実(マイタウンID:6714-8952)」