八時十五分の鐘と青い翼
八月六日の朝、みるくは白いブラウスに赤いキュロットを合わせ、金色の羽飾りを背負って、深い森の泉へ向かった。出発前に焼いたトーストは少し焦げており、バターの香りが残る台所には、洗い終えた麦茶のコップが伏せてあった。今日は広島へ原子爆弾が投下された日だと知り、午前八時十五分には戦いをやめ、静かに祈ろうと決めていた。
「八十一年前の今日、多くの人の普通の暮らしが一瞬で壊されたの。だから、鐘が鳴ったら武器を下ろそうね」
仲間の戦士は黄色い肩掛けを直し、うなずいた。ところが泉へ着くと、青い大きな翼を持つ魔物が暴れ、黒い鎧の兵士たちへ水の刃を飛ばしていた。ぬれた土の匂いが立ちこめ、足元では水しぶきが冷たく跳ねた。
「みるく、来るぞ。右へ避けろ。反撃は俺に任せろ」
「待って。この魔物、私たちを狙っていないよ。あの岩の向こうを守ってる」
みるくが目を凝らすと、青い翼の陰に小さな卵が三つ並んでいた。黒い兵士たちは魔物の宝玉を奪おうとしており、炎をまとった剣で巣を焼こうとしていたのである。みるくは昨日の夕食で残した梅干し入りのおにぎりを腰袋から出し、一口かじって塩気で頭をはっきりさせた。
「命を守ろうとしている相手と戦ったら、私たちまで奪う側になっちゃう。先に兵士を止めよう」
「分かった。だが倒すのではなく、武器を落とさせるぞ」
仲間が盾で炎の剣を受け止め、みるくは泉の水を操って兵士たちの足を包んだ。青い魔物は鋭い声を上げたが、みるくたちが卵へ近づかないと分かると、翼を広げたまま動きを止めた。金属のぶつかる音と荒い息が森に響いたそのとき、遠い町から八時十五分を告げる鐘が聞こえてきた。
「鐘だよ。みんな、武器を置いて」
みるくは杖を地面へ置き、胸の前で両手を組んだ。仲間も盾を下ろし、黒い兵士たちは互いの顔を見てから剣を水辺へ置いた。森には葉を揺らす風の音と、青い翼から落ちる雫の音だけが残った。
「今日だけ戦わないのでは足りないよね。明日も、その次の日も、話し合える道を探さなくちゃ」
「そうだな。平和は願うだけではなく、目の前の命を奪わないところから始まるんだ」
鐘が鳴り終わると、青い魔物は翼を静かに畳み、みるくの頬へ鼻先を寄せた。卵の一つが小さく揺れ、殻の内側からコツンという音が聞こえたため、兵士たちからも笑い声が漏れた。みるくは少しつぶれたおにぎりを仲間と分け、梅干しの酸っぱさに目を細めながら、誰も武器を拾わない朝が世界中へ続きますようにと願った。

幸せを感じる心を育てていけますように