季節の織り糸 第三十八候 立秋 次候 寒蝉鳴
八月十二日、みるくは朝からお気に入りの青と白のドレスに着替えた。白いフリルのついた靴下を整え、鏡の前で髪飾りを直していると、窓の外からカナカナカナというヒグラシの声が聞こえてきたので、胸が弾んだ。今日はただ散歩するのではなく、林の奥にある古い小屋を探検する日なのだ。昨日の夜、冒険日誌に「林の奥で青い光を見た」という書き込みを見つけてから、みるくは朝食のパンを食べながら何度もその場所を思い浮かべていた。
「みるく、準備できた?」
玄関から声がして、みるくは慌てて水筒を肩にかけた。待っていた仲間も、いつもより少しおしゃれな服を着ていて、白い衣装の裾には小さな花飾りが揺れている。二人は顔を見合わせると、忘れ物がないか確認したが、みるくの冒険日誌だけが机の上に残っていた。慌てて取りに戻ると、昨夜食べたクッキーの包み紙まで一緒に挟まっていて、みるくは自分で笑ってしまった。
「よし、今度こそ出発!」
林へ続く道には朝露が残り、草を踏むたびにサンダルの足元が少し冷たくなった。木陰に入ると潮の匂いが薄れ、湿った土と葉の青い匂いが強くなる。遠くでは海の波が低く鳴り、頭上ではヒグラシが競争するように鳴いているので、みるくは冒険日誌を開きながら歩いた。ページの端には昨日こぼしたジュースの染みまで残っていたが、そんなことも今日は気にならなかった。
「青い光って、どこにあるのかな?」
「まずは小屋を探そう。話はそれから!」
「もし宝箱だったらどうする?」
「もちろん開ける!」
「じゃあ、モンスターだったら?」
「そのときは……逃げる!」
二人は声を合わせて笑いながら林の奥へ進んだ。やがて古い木造の小屋が見えてきて、蔦の絡まった窓から淡い青い光が漏れていた。みるくは思わず立ち止まり、胸の前で冒険日誌を握りしめた。光の近くには小さな羽根のようなものが浮かび、風もないのにふわふわと揺れている。
「見つけた!」
みるくが一歩近づくと、青い光がぱっと明るくなった。驚いて後ろへ下がったみるくの肩に、仲間がそっと手を置く。怖さよりも先に「何が起こるんだろう」という気持ちが膨らみ、みるくは笑いながら日誌を開いた。新しいページに今日の日付を書き、その下へ大きな文字で記した。
「第三十八候、寒蝉鳴。今日、私たちは青い光を見つけた!」
その瞬間、ヒグラシが一斉に鳴き始めた。みるくは顔を上げ、木々の間から差し込む夏の光を見ながら、水筒の麦茶を一口飲んだ。冷たい麦茶が喉を通ると、次の冒険がもう始まっているような気がした。
「ねえ、みるく。明日はどこへ行く?」
「もちろん、この小屋の中!」
二人は顔を見合わせ、また笑った。