天馬の大剣は誰のため?
朝、窓を開けると、むっとする夏の熱気とセミの声が部屋へ入り込んできた。私は白い半袖シャツに青いスカートを着て、冷蔵庫から冷えた麦茶を取り出した。机には昨日使ったランプ錬金道具と、食べかけのおにぎり、汗と涙の結晶の在庫を書いた帳面が置いてある。
「さて、今日も天馬の大剣を見てみようかな」
武器鍛冶ができない私は、バザーで★3の天馬の大剣を仕入れて、それにランプ錬金をする。今日も安い出品を探していると、92,500G、92,490G、91,999G、91,900Gと、かなり安い大剣が並んでいた。私は数字を一つずつ確認しながら、必要なものだけを買い物かごへ入れた。
「よし、この値段なら仕入れても大丈夫」
天馬の大剣を買ったら、今度は錬金だ。錬金が終わった私は、ただ成功したかどうかだけを見るのではなく、その錬金を付けた装備から最終的に何個の汗と涙の結晶が取れるのかを確認する。ここが私の値付けで一番大切なところで、同じ★3の大剣でも、取れる結晶が36個なのか37個なのか38個なのかで、売る値段は変わってくる。
「36個なら、36×3,000Gで108,000G。そこから10,000Gを引けば98,000Gね」
帳面に数字を書き込み、私は鉛筆の先で計算結果を二度確かめた。37個なら111,000G、38個なら114,000Gになるので、同じ大剣だからといって全部同じ値段にはできない。使う人が結晶を取り出したときに、どれだけの価値になるのかを考えて、一本ずつ値段を決めている。
「だから、これは98,800G。こっちは101,000G。こっちは104,000Gだね」
実際にバザーへ出すと、98,800Gの天馬の大剣が売れた。95,950Gのものも次々に売れていて、画面には購入者の名前が並んでいく。
「おお、また売れた!」
私は冷めかけたおにぎりを一口食べて、麦茶を飲んだ。海苔の香りが口に広がったところで、ふと販売手数料の数字が目に入り、手を止める。
「でも、これって本当に儲かってるのかな……」
仕入れ値を考え、ランプ錬金代を考え、販売手数料を引く。それらを全部合わせると、残る利益はほんのわずかになる。けれど、私はそこで大剣を眺め直した。
「まあ、今は錬金のレベル上げもあるしね」
天馬の大剣を使う人は、結晶を取り出すために買ってくれる。だから私は、できるだけ安く仕入れて、錬金をして、結晶としてどれだけの価値があるのかを確認してから値段を付ける。自分だけが儲かればいいという考えではなく、買った人にも「この値段なら結晶を取っても損はしない」と思ってもらえるようにしたい。
「安ければ何でもいい、じゃないんだよね」
窓の外では、強い日差しがベランダの洗濯物を照らしている。私は帳面の端に今日の仕入れ値と販売価格を書き込み、最後に小さく「錬金経験値も増えた」と付け足した。
「大きく儲からなくても、誰かが使ってくれるなら、それでいいかな」
そう言って、私は次の天馬の大剣を手に取った。結晶が36個なのか、37個なのか、それとも38個なのかを確かめながら、今日もみるくの錬金屋は静かに営業を続ける。