DQ10 薄利多売の青息吐息――みるくのワクワクドキドキ冒険日誌
朝、みるくは小さな机の前に座り、昨夜から使い込んでいる帳面を開いた。水色のワンピースの袖を肘までまくり、焼きたてのパンをかじりながら、昨日の仕入れ値と販売価格を一つずつ書き込んでいくと、紙から鉛筆の粉っぽい匂いがした。机の端には飲みかけのミルクが置かれ、冷めて薄い膜が張っていたが、みるくはそれにも気づかないほど数字をにらんでいた。
「天馬の大剣、八万四千、八万五千……よし、安いのを買えた!」
みるくは椅子から立ち上がると、勢い余って膝を机にぶつけた。ゴンッという音に「いたっ」と顔をしかめながらも、すぐに商人の町へ走り出す。露店が並ぶ通りには、焼き魚の香ばしい匂いと、道具屋から漂ってくる油の匂いが混ざっていて、朝から冒険者たちの声が飛び交っていた。
「大剣、買います! 買いますよー!」
みるくが目を輝かせて天馬の大剣を十本仕入れると、財布の中身は一気に軽くなった。十本で八十万ゴールドを超え、さらに錬金ランプまで買ったため、帳面に残った数字を見て、みるくの指がぴたりと止まる。けれど、ここで怖くなって手を止めたら、今まで集めてきた素材も経験も無駄になる。
「大丈夫、大丈夫。安く買って、錬金して、売ればいいんだもん!」
工房へ戻ると、みるくは赤い前掛けに着替え、袖口を紐でしっかり結んだ。天馬の大剣を一本ずつ台に置き、プラチナ錬金ランプを点火すると、青白い炎が揺れて金属の匂いが鼻をくすぐる。隣では朝食のパンの食べかけが皿に残っていたが、みるくはそれを一口だけかじり、また作業に戻った。
「お願い、いい錬金になって!」
カン、カン、と錬金道具を叩く音が工房に響き、みるくは額の汗を手の甲で拭った。何本かは狙った結果になり、天馬の大剣+3が完成すると、すぐにバザーへ並べる。九万五千九百五十ゴールド、九万八千八百ゴールドと価格を入力しながら、みるくは何度も売れ行きを確認した。
「売れた! また売れた! ……でも、これだけ頑張って、利益はちょっとだけ?」
画面に並ぶ売却記録を見て、みるくは頬を膨らませた。一本売れるたびに嬉しいのに、仕入れ代、錬金ランプ代、素材代を引いていくと、ゴールドは思ったほど増えていない。それでも、売れ残った大剣が倉庫に積み上がるよりはいいと考え直し、みるくは空になった皿を洗い場へ運んだ。
「薄利多売……って、もっとキラキラした言葉だと思ってたよ!」
夕方、みるくは再び帳面を開いた。今日の利益を書き終えると、鉛筆の先をくるくる回しながら、明日はもっと安い大剣を探そうと決める。窓の外では夕焼けが町の屋根を赤く染め、工房にはまだ錬金ランプの熱が残っていた。
「よーし、明日も仕入れて、作って、売るぞ! みるく商店、青息吐息でも営業中だよ!」
そう叫んだ瞬間、腹がぐうっと鳴った。みるくは少し黙ってから笑い、冷めたミルクを一気に飲み干して、夕飯の魚を焼くために台所へ向かった。