八月十五日、虫の音を聞いたみるく
八月十五日の夜、みるくは海辺の広場で立ち止まった。白と黒の旅装束の裾を潮風になびかせながら、手にした小さな楽器を下ろすと、さっきまで聞こえていた仲間たちの笑い声の向こうから、かすかな虫の音が流れてきた。昼間は照りつける太陽で焼けた石畳も、今は少し冷たくなっていて、屋台から漂ってくる焼きとうもろこしの醤油の香ばしさが鼻をくすぐった。
「みるく、どうしたの? 急に立ち止まって」
後ろから声をかけられて、みるくは振り返った。赤い楽器を抱えた仲間が首をかしげ、その隣では小さなモンスターが屋台でもらった焼き芋を両手で抱えている。みるくは笑いながら、耳を澄ませるように片手を耳へ添えた。
「聞こえない? 虫さんの声。昼間は全然気づかなかったのに」
「本当だ。リーン、リーンって鳴いてるね」
みるくは空を見上げた。濃い青色の夜空には星がいくつも浮かび、遠くでは盆踊りの太鼓がドン、ドンと響いている。海から吹く風には少しだけ涼しさが混じっていて、みるくは胸元の布を指先で押さえながら、夏が少しずつ次の季節へ歩いていることを感じていた。
「今日は八月十五日なんだね」
「そうだよ。お盆休みも終わりに近いし、精霊流しを見に行く人もいるみたい」
その言葉を聞いて、みるくは広場の端に並んだ小さな灯りへ目を向けた。水面には色とりどりの灯籠が浮かび、風に揺れるたび、赤や黄色の光が細長く伸びていく。みるくは屋台でもらった冷たいラムネを一口飲み、舌に残る甘さを味わいながら、旅の途中で出会った人たちの顔を一人ずつ思い出した。
「みんな、元気にしてるかな」
「きっと元気だよ。みるくが忘れなければ、いつだって会えるさ」
みるくはその言葉を聞いて、少しだけ笑った。けれど、すぐに遠くから花火が上がり、夜空いっぱいに大きな光が開いたので、考えていたことは全部吹き飛んでしまった。ドンッという音が胸に響き、海面が金色に揺れ、隣の仲間が焼き芋を落としそうになって慌てて抱え直した。
「わあっ! みるく、見て!」
「見てるよ! 次はもっと大きいよ!」
花火が終わると、広場には再び虫の音が戻ってきた。みるくは空になったラムネの瓶を屋台へ返し、少し汗ばんだ袖を直してから、仲間たちと宿へ向かって歩き出す。八月十五日の夜は静かだったが、みるくの足取りは軽かった。
「明日はどこへ冒険に行こうか?」
「もちろん、まだ誰も知らない場所!」
虫の音を背中に聞きながら、みるくは笑って走り出した。
8月15日
盆 休
終 戦
盆 波
夾竹桃
花 火
魂 迎
盆 踊
万 緑
曝 書
生身魂
生御魂
星 祭
隠 元
生身魂
八月十五日
夏火鉢
くらげ
精霊流し
西 日