みるくの冒険日誌 赤毛のアンになった朝
朝、森の小道へ出たみるくは、新しく買った洋服の裾を両手でつまんで、くるりと一回転した。淡い緑色のワンピースには細かな模様が入っていて、麦わら帽子のリボンには小さな花飾りまでついている。袖からのぞく腕に朝の風が触れるたび、布地がさらりと揺れて、みるくは何度も自分の姿を見下ろした。「うふふ、今日はちょっとだけ赤毛のアンみたいなのです」
森には昨夜までの雨が少し残っていて、湿った土と葉っぱの青い匂いが鼻をくすぐった。鳥の声が頭上から聞こえ、木漏れ日が帽子のつばに小さな丸い光を落としているので、みるくは教会へ向かうつもりだった足を止めてしまった。道端には白い小花や黄色い花、紫色の小さな花が咲いていて、それを見ているうちに、昔読んだ『赤毛のアン』の場面が胸の中によみがえった。「教会へ行く途中で、こんなお花を見つけたら……摘みたくなっちゃいますよね」
みるくはしゃがみ込み、花を一本ずつ丁寧に摘み始めた。帽子の横に挿してみたり、ワンピースの胸元に添えてみたりしているうちに、いつの間にか両手いっぱいになり、白い花びらが腕からこぼれ落ちた。近くにいたウサギが鼻をひくひくさせ、猫まで何事かとこちらを眺めているので、みるくは思わず笑ってしまった。「ねえ、見て見て。どれが一番似合うと思う?」猫は返事をせず、尻尾を揺らしながら木陰へ歩いていった。
「もう、みんな恥ずかしがり屋さんなのです」みるくはそう言いながら、摘んだ花を小さな束にまとめた。けれど、教会へ行くはずだった時間はとっくに過ぎていて、ポケットから取り出した時計を見ると、針は思ったより先へ進んでいる。朝ごはんに食べた焼きたてパンの甘い香りがまだ口の中に残っているのを思い出し、みるくは「帰ったらミルクも飲もう」と小さくつぶやいた。
それでも、花を置いて帰る気にはなれなかったので、みるくは帽子のリボンをほどいて、そこへ花束を結びつけた。麦わら帽子から白や黄色の花が揺れるたび、歩くたびに甘い草の匂いが鼻先を通り過ぎ、さっきまでの森とは少し違う場所を歩いているような気がした。「今日は教会じゃなくて、森がお祈りする場所だったのかもしれないね」みるくはそう言って笑い、花いっぱいの帽子をかぶり直した。
帰り道、木の枝から落ちた雫が肩にぽたりと落ちた。みるくは驚いて空を見上げ、それから濡れたワンピースの袖を指でつまんで、「まあ、これも冒険の思い出なのです」と笑った。新しい洋服に小さな花を飾っただけなのに、その日の森はいつもより広く、いつもより近く感じられた。