八月十五日、八十一年目の空
八月十五日。今日は終戦記念日だ。あれから八十一年が過ぎたのだと知って、みるくは冒険の途中で足を止めた。青い空の下では、いつものように仲間たちが宝箱を囲み、その後ろでは巨大な魔物が大きな体を揺らしている。けれど、今日だけは、その光景を眺めるみるくの気持ちが少し違っていた。紫色の髪を風になびかせながら、みるくは紺色のスカートの裾を直し、背負っていた武器の位置を確かめた。
「ねえ、今日は八月十五日だよ」
隣にいた仲間が首をかしげた。みるくは答える前に、道具袋から小さなパンを取り出した。少し硬くなったパンを半分に割ると、小麦の香りがふわりと漂う。ひと口かじると、乾いた生地が口の中でゆっくりほどけていった。冒険の途中で食べるパンはいつだっておいしい。それなのに、今日はその味を確かめるように、みるくはゆっくり噛んだ。
「八十一年前の今日、日本では戦争が終わったんだって。正午にラジオから天皇陛下のお言葉が流れたんだよ」
「ラジオって、今のテレビみたいなもの?」
「ううん。音だけ。しかも、みんなが好きな時間に聞けるわけじゃなかったんだ」
「じゃあ、どうやって聞いたの?」
「家族でラジオの前に集まったんじゃないかな」
みるくはそう言って、遠くの空を見上げた。ゲームの世界なら、強い魔物が現れても仲間と力を合わせれば立ち向かえる。倒れても教会へ行けば、また歩き出せる。けれど、現実の戦争で失われた命は、どこへ行っても戻ってこない。八十一年前の人たちは、どんな服を着て、何を食べ、どんな部屋でラジオの前に座っていたのだろうと、みるくは考えた。
「ねえ、お昼ごはんは何を食べたのかな」
「そこが気になるの?」
「だって、お腹が空いていたら放送を聞くのも大変だよ」
仲間が吹き出した。みるくも笑ったが、すぐに口元を小さく結んだ。宝箱の横に置かれた木箱へ腰を下ろすと、革靴の中に入り込んだ砂が足の裏に当たった。額には汗がにじみ、草の青い匂いと、熱くなった土の匂いが鼻をくすぐる。遠くでは魔物の低い唸り声が響いている。それはいつもの冒険の音だった。
「『堪え難きを堪え、忍び難きを忍び』って言葉があるんだって」
「難しい言葉だね」
「うん。でも、その先に、今みたいな毎日があるんだと思う」
みるくは残ったパンを仲間に差し出した。
「半分こしよう」
「いいの?」
「うん。今日は八月十五日だから」
仲間は少し照れたようにパンを受け取った。二人でパンを食べながら、みるくはもう一度空を見上げた。八十一年という時間は、とても長い。けれど、その長い時間の先で、誰かが朝ごはんを食べ、洗濯物を干し、友達と笑い、ゲームの世界で宝箱を開けている。そんな何気ない毎日が続いていることを、みるくは大切な宝物のように感じた。
「さあ、行こう」
「次はどこ?」
「もちろん、宝箱の中身を確認するんだよ」
「そっちが本命だったのか!」
みるくは笑いながら立ち上がった。スカートについた砂を手で払い、帽子の位置を直す。八月十五日の空は、どこまでも青かった。みるくは仲間と並んで歩き出した。今日もご飯を食べ、友達と笑い、冒険ができる。その当たり前の一日を、八十一年前の夏へそっとつなげるように、みるくは歩いていった。