ねえ、お茶を飲みに行きましょうよ
冒険者の宿へ戻ったみるくは、花で飾られた窓辺から通りを何度ものぞいた。白い髪には薄紫色の薔薇と蝶の髪飾りをつけ、淡い桃色のドレスの胸元には大きなリボンを結んでいる。討伐から戻ったばかりの彼が装備を片づけている間、みるくは冷めた紅茶を匙でかき混ぜ、カップの中へ小さな渦を作っていた。
「ねーねー、寂しいからお茶飲みに行きましょうよ」
黒髪の青年レオンは、磨いていた剣から顔を上げた。机には泥のついた手袋、読みかけの地図、朝にもらった硬い焼き菓子が置かれ、彼の外套からは雨と革の匂いがしている。みるくは返事を待ちながら両手を胸の前で合わせ、青い瞳をいつもより大きく見開いた。
「ここにも紅茶があるだろう。しかも、まだ半分残っている」
「ここで飲むのとは違います」
みるくは頬を膨らませ、冷めたカップを机の端へ押した。行きたいのは町外れにある小さな喫茶店で、蜂蜜入りのミルクティーと木苺のタルトが評判だった。けれど本当に欲しいものは菓子だけではなく、急いで食べずに彼と話せる時間だった。
「レオンは剣を磨きながら地図を見ます。私の話は、いつ聞いてくれるのですか?」
レオンは手にしていた布を畳み、剣を鞘へ戻した。みるくの髪には宿の飾りから落ちた桃色の花びらが一枚ついていたが、本人は気づかず、まだ彼の返事を待っている。レオンが手を伸ばして花びらを取ると、みるくは触れられた場所を押さえて瞬きをした。
「そんな顔で頼まれたら、断れる男がいると思うか?」
「では、行ってくれますか?」
「木苺のタルトが売り切れる前にな」
外へ出ると雨はやみ、濡れた石畳から土と草の匂いが立っていた。みるくはレオンの半歩前を歩いていたが、水たまりを飛び越えた拍子にドレスの裾を踏み、体を傾けた。倒れる前に腕をつかまれ、硬い胸当てへ頬が触れると、みるくは慌てて離れようとした。
「す、すみません。今のは道が悪かったのです」
「そうだな。だから店まで手をつないでおこう」
「それは道と関係がありますか?」
「冒険者の安全対策だ」
差し出された手は、剣を握っていたため少し硬く、雨上がりの空気よりも温かかった。みるくは迷うふりをしてから指を重ね、彼に見られないよう口元を緩めた。二人分の足音が並んで石畳へ響き、喫茶店の窓から焼きたてのタルトの甘い香りが流れてきた。
「お茶だけでは足りません。今日はたくさんお話ししてくださいね」
「分かった。その代わり、次からは寂しくなる前に呼べ」
「呼んだら、いつでも来てくれますか?」
「君が呼ぶなら、どこにいても帰ってくる」
みるくは返事の代わりに、つないだ指へ少しだけ力を込めた。レオンも手を離さず、喫茶店の扉を開けて彼女を先に通した。蜂蜜入りのミルクティーが届くまで、二人の手はテーブルの下で、ずっと重なったままだった。